第6話 オアシス

視界が、白一色に染まった。


鼓膜を引き裂く轟音(ごうおん)も、鼻を突く血の臭いも。 世界のあらゆる感覚が、その絶対的な白さに飲み込まれた。


「……ッ!」


イヒョンは強く目を閉じたが、薄い瞼(まぶた)はその奔流(ほんりゅう)のような輝きを防ぎきれない。


足首を鉄塊のように締め付けていた黒い影たちは、光に触れた途端、「ジュウウ」と不気味な音を立てて跡形もなく蒸発した。 闇が抉(えぐ)り取られた場所に残ったのは、奇妙な静寂だけだった。


その光は、皮膚を焼く怒りの炎のように熱くはない。 かといって、恐怖に凍てつく氷のように冷たくもなかった。


ただ、どこまでも透き通っていた。


塵(ちり)一つ混じらない、澄み切った哀(かな)しい温もり。 それはただ「生かしたい」という、盲目的で凄絶(せいぜつ)な願いが作り出した結晶体。 リセラから説明を受けたものの、到底理解の範疇(はんちゅう)を超えていた力――それこそが、『コルディウム』だった。


イヒョンは荒い息を吐き出し、上体を起こした。 全身が悲鳴を上げているが、胸の奥底からは熱い何かが込み上げている。


淡い月明かりの下、馬車の黒いシルエットが闇の中へと急速に遠ざかっていた。


イヒョンは考えるよりも早く、地面を蹴った。


ヒュッ、と肺の奥深くに突き刺さる夜明けの空気が、刃物のように冷たい。


心臓が肋骨(ろっこつ)を砕いて飛び出さんばかりに脈打ち、喉元までせり上がった鉄錆(てつさび)のような血の味が口内を巡る。 太腿(ふともも)の筋肉が悲鳴を上げたが、脚は機械のように地面を叩き、加速した。


滲(にじ)むように遠ざかっていた馬車が、視界の中で鮮明になっていく。


指先が届くか、届かないか。 そのギリギリの距離。


イヒョンは指の骨が軋(きし)むほど拳を握っては開き、虚空へ向かって死に物狂いで腕を伸ばした。


彼は最後の力を振り絞り、馬車に向かって身を投げ出した。 指先が後方の手摺(てすり)に触れた瞬間、彼は奥歯を砕く勢いで噛み締め、本能的にそれを鷲掴(わしづか)みにした。


粗削りな木製の手摺が、掌(てのひら)の皮膚を削り取る。 摩擦熱で肉が焼けるような激痛が走ったが、イヒョンはその手を離さなかった。


「ぐうぅッ……!」


肩の関節から「ゴキッ」という嫌な音がした。 引きずられる下半身が、宙ぶらりんのまま危うく揺れる。 彼は額に青筋を浮かべ、腕の筋肉を極限まで収縮させた。


――ガタンッ!


その時、車輪が砂利(じゃり)に乗り上げ、馬車が大きく跳ねた。 空中に放り出され、叩きつけられる衝撃。 汗で滑りやすくなっていた握力が、「スルリ」と無情にも解(ほど)けてしまった。


身体が虚空へ投げ出される、目眩(めまい)がするほどの浮遊感。


墜落する――そう思った刹那。 細く、頼りない温もりが、イヒョンの手首を死に物狂いで掴んだ。


「おじさん! お願い!」


紅葉(もみじ)のような両手が、白くなるほど強くイヒョンの腕にしがみついていた。


折れそうなほど細い腕が、ピンと張り詰める。 自分の体を支えるだけでも精一杯なはずの小さな手が、イヒョンの手首を絶対に離すまいと必死に食らいついている。


いっぱいに溜まっていた涙が、ついに少女の頬を伝い、ポタポタとイヒョンの泥だらけの頬へと落ちてきた。


震える唇から漏れる、荒い息遣い。 そのあまりに健気(けなげ)で必死な姿が、消えかけていたイヒョンの心臓に、再び火を点(とも)した。


『生きねばならない』


奥歯が砕けるほどの力で噛み締める音が、顎(あご)の関節を鳴らす。 イヒョンの前腕に、青い血管がミミズのようにのた打ち回り、膨れ上がった。


彼は裂帛(れっぱく)の気合と共に虚空を蹴り、上半身を跳ね上げた。


――ドスンッ!


ドスン、と鈍く重い音を立てて。 イヒョンの身体が、ささくれ立った荷車の床に転がり込んだ。


彼が床に伏した瞬間、エレンが飛びついてきた。 小さく細い腕が、イヒョンの胴体に強く巻き付く。 子供は彼の胸に顔を埋(うず)め、堰(せき)を切ったように泣き出した。


「おじさん……怖かった……うぅっ、本当に怖かったです……」


イヒョンは無言のまま、震えるエレンを抱きしめた。


彼の心臓はまだ早鐘を打っており、指先は小刻みに震えている。 興奮と緊張の余韻(よいん)が全身を支配していたが、胸を濡らすエレンの温かい体温と涙が、イヒョンの荒ぶる魂をゆっくりと鎮(しず)めていった。


イヒョンは首を巡らせ、荷車の後方を確認した。


遠くの闇の中で、追っ手の姿が亡霊のように揺らめいている。 だが、猛スピードで駆ける馬車との距離は確実に開いていた。 やがて、奴らの影は完全に闇の中へと溶けて消えた。


リセラは前方を真っ直ぐに見据え、手綱を握る手に力を込めていた。


彼女は一言も発しなかった。


ただ一度だけ、無事に乗り込んだイヒョンとエレンを短く振り返り、安堵(あんど)の色を浮かべて、再び前を向いただけだった。


馬車は止まることなく走り続けた。


どれくらいの時間が過ぎただろうか。 夜の帳(とばり)が徐々に上がり、地平線の彼方から黎明(れいめい)の紅(あか)い光が世界を染め始めた。


ひとしきり泣き疲れたエレンは、イヒョンの膝を枕にして深い眠りに落ちていた。 イヒョンは手摺(てすり)に背を預け、警戒を解かずに周囲を監視し続けた。


追っ手の気配は、もうない。


規則的な蹄(ひづめ)の音と、車輪がガタゴトと鳴る音だけが、静寂な夜明けを彩っていた。 胸を押し潰していた不安は、昇る朝日と共に薄らいでいった。


________________________________________


紅い朝焼けが引いた空には、いつしか白く灼熱(しゃくねつ)する太陽だけがポツンと残された。 視界の限り、乾いた黄土色の砂と、枯れ果てた灌木(かんぼく)だけが殺風景に続いている。


ブルルッ。


口元に白い泡を溜めた馬が、鼻を鳴らした。 車輪が砂の窪(くぼ)みに嵌(は)まるたび、「ギギィ」と錆びついた音が飴(あめ)のように伸びる。


緊張が潮のように引いた後を、鉛のような疲労感が埋め尽くしていた。 イヒョンは重くなる瞼(まぶた)を無理やりこじ開け、乾いた掌で顔を擦(こす)った。 伸びかけの無精髭(ぶしょうひげ)と、砂埃のザラつく感触が手に残る。


その時だった。 揺らめく陽炎(かげろう)の向こうから、鋭い光の破片がイヒョンの網膜を刺した。


幻覚かと思い目を擦ったが、その蒼(あお)い光は消えなかった。 燃え盛る赤い荒野の真ん中に、まるで空を切り取って貼り付けたかのような、冷たく澄んだ蒼い水面が揺蕩(たゆた)っている。


オアシスだ。


透明な水面の上で、眩しい陽光が煌(きら)めき、砕け散っている。


その周囲を太い根を張った古木たちが守るように取り囲み、灼熱の太陽を遮って深く涼しい木陰を落としていた。 灰色の砂嵐さえ侵すことのできない、緑の別天地。


清らかな水辺では、先客の馬たちが長い首を突っ込んで喉を潤していた。 彼らが身震いするたび、濡れた革馬具から飛び散った水滴が、乾いた砂の上に濃い斑点模様を描き出す。


古いキャラバンの傍(かたわ)らでは、商人たちが慣れた手つきで色とりどりの布を張り、日陰を広げていた。 焚き火の上の鍋からはスープの甘い香りが漂い、その合間から「ポロン……」と、誰かが爪弾(つまび)く古い弦楽器の音色が気怠(けだる)げに響く。


追われる者たちの荒い息遣いが嘘のように、そこには緩やかで穏やかな時間が流れていた。


リセラは手綱を引き、馬車の速度を落として泉の方へと向かった。


商人たちは見慣れぬ馬車を一瞬警戒したが、疲労困憊(ひろうこんぱい)の若い女と少女、そして埃まみれの男の姿を確認すると、すぐに毒気を抜かれたように緊張を解いた。


イヒョンは馬車から降り、眠っているエレンを慎重に抱き上げた。 十歳そこそこの幼い少女には、あまりに過酷な旅路だったはずだ。 彼はエレンを木陰へと運び、そっと横たえた。 子供は安心しきった様子で、穏やかな寝息を立てている。


リセラも馬車を降り、馬のハーネスを解いて手綱(たづな)を引き、泉へと連れて行った。 疲弊(ひへい)した馬は、水の匂いを嗅ぐや否や、鼻先を突っ込んで勢いよく水を飲み始めた。


リセラは疲れ切った顔で泉のほとりにしゃがみ込み、手で水を掬(すく)おうとした。


「その水は飲まないでください」


イヒョンの低く断固とした声に、リセラが訝(いぶか)しげな表情で見上げる。


「そのまま飲むにはリスクがあります。煮沸(しゃふつ)してからの方がいい」


彼女は一瞬動きを止めたが、すぐに納得して頷き、水から手を離した。 彼女は立ち上がり、千鳥足(ちどりあし)でエレンの元へ戻って腰を下ろした。 眠る娘の髪を撫でながら、彼女はようやく長い安堵(あんど)の溜息を吐いた。


その時、泉の周囲にいた集団から、三人の男女がイヒョンたちの方へ近づいてきた。


真ん中に立った男が、イヒョンの見慣れぬ服装をじろりと観察し、興味深そうに口を開く。


「その身なり……どこの都市の貴族様かな? それとも、東の海を渡ってきた高貴な血筋か? 眼光が只者(ただもの)ではないからね。ハハッ!」


イヒョンは警戒を解かずに彼らを凝視した。


男はイヒョンより背は低いが小太りで、ガッシリとした体格をしていた。 日焼けした銅色の肌は、長い旅路の年輪(ねんりん)を物語っており、長く反り上がった濃い口髭(くちひげ)が印象的だ。 目元は温和に見えるが、その奥には相手を値踏みするような、商売人特有の鋭さが潜んでいる。


彼が纏(まと)っている古い遊牧民風のローブは丈夫そうで、腰の革ベルトには巾着袋や様々な道具がジャラジャラと吊り下げられていた。 分厚い革のサンダルに至るまで、絵に描いたようなベテラン商人の出で立ちだ。


イヒョンが監獄で見た野蛮な狩人どもとは明らかに違う、洗練された異国的な雰囲気を漂わせていた。


「ハハハ、そう警戒なさるな!」


男は豪快に笑い、片手で帽子を取って丁寧に頭を下げた。


「失礼した。私はケラムと申します。商団を率いておりましてな。北の鉱山都市と西の海岸都市を行き来する貿易商です」


「ソ・イヒョンです」


イヒョンは短く答えた。


「おぉ、左様ですか」


ケラムは余裕のある笑みを浮かべ、両脇の同行者を紹介した。


「こっちはカイロン。ウチの商団の護衛隊長です。強面(こわもて)ですが、見た目と違って法無しでも生きられる善人ですよ。ハハ!」


背が高く、肩幅の広い男――カイロンは、顔に太い傷跡が数本走っていたが、妙に人を安心させる人好きのする笑みを浮かべていた。 彼は擦り切れた布の包みを肩に担いだまま、軽く黙礼した。


もう一人、濃い栗色の髪をポニーテールにした女性が、朗らかな表情でイヒョンを見た。


「マイラと言います」


彼女は膝を軽く折って、行儀よく挨拶した。


「ハハ、相変わらず愛想がいいねぇ、マイラ。もう独立して商団を立ち上げてもいい頃合いだ!」


ケラムが軽口を叩くと、マイラは照れくさそうに笑ってみせた。


「マイラはウチの会計担当です。計算が早くて助かってますよ」


彼らはケラムを中心に、強固な信頼関係で結ばれているようだった。


イヒョンは過去、数多(あまた)のビジネスミーティングや契約の席で人を相手にしてきた感覚を呼び覚ました。 相手の好意が純粋なものか、それとも計算されたものか。 それを見極めようとする本能がうずいた。


「水です。喉が渇いておられるでしょう」


ケラムが腰から革袋(かわぶくろ)を取り出し、差し出した。 イヒョンは一瞬躊躇(ためら)った。 湧き水は飲むなと言ったが、商人が肌身離さず持ち歩いている水なら安全だろう。 何より、喉が焼けそうだった。


「……感謝します」


彼は革袋を受け取り、一口飲んだ。


世の中に「タダ」より高いものはない。それをイヒョンは誰よりも知っていた。 だが彼は緊張を保ったまま、薄い笑みを浮かべてみせた。 ひとまずは、この好意を受け入れることにした。


ケラムはイヒョンが水を飲んでいる間、彼の上着を再びじろじろと観察していた。


生地の質感、縫製の精密さ、染色の希少性まで。 目だけで素早く見積もりを出しているような視線だ。


「いやはや、こんな服は初めて見ますな。未知の生地、繊細な縫製、精巧な裁断(カッティング)……。まるで神の手が触れた品物のようです!」


彼の瞳には商人特有の貪欲さが光っていたが、口調は変わらず柔らかく、人を引き込む妙な親近感が滲(にじ)み出ている。


イヒョンは、彼が単なる商人ではないと直感した。


他人の反応を読み取り、場の空気を掌握する能力。 感情の流れを空気のように感知する才能。 もしかすると、この男も『コルディウム』に関連する能力を扱える手合いかもしれない。


イヒョンは自分の服を見下ろした。


ソウルから着てきた高級シャツとズボンは埃まみれになっていたが、本来は最高級の生地で仕立てられた名品スーツ、『キートン(Kiton)』だ。


彼はケラムが近づいてきた理由を即座に悟った。 イヒョン一行がオアシスに入った瞬間から、鷹のような目で見定めていたに違いない。


「必要ですか?」


イヒョンは単刀直入に尋ねた。 逃亡者の身分で、これほど目立つ服を着続けるのは賢明ではないと判断したからだ。


ケラムは一瞬驚いたように瞬きをしたが、すぐにニヤリと笑って頷いた。


「ほう、商売(とりひき)に慣れていらっしゃるようだ。なら、話が早い」


彼はイヒョンとリセラ、そして彼女の膝で眠るエレンを一瞥(いちべつ)して言った。


「どんなご事情があるかは存じませんが、あまり良い状況ではないようですな」


「さて、どうでしょう。そう悪くはありませんよ。むしろ、かなり順調な方です」


イヒョンは余裕のある笑みを浮かべて切り返した。


事実、水も食料も底をつき、全員が疲弊(ひへい)していた。 だが、窮地(きゅうち)にある者が弱みを見せれば、決して有利な取引はできない。それを彼は経験則として知っていた。


ケラムは跳ね上がった髭(ひげ)を撫でながら、本題に入った。


「あなたのその服、売る気はありませんか? 水と食料、それにご希望なら他の品物もつけましょう」


イヒョンは顎(あご)をさすり、少し悩む素振りを見せた。


「いいでしょう。水と食料、それに着替えの服と有用な情報。それらを頂けるなら、この服と交換します」


「いい取引になりそうだ」


ケラムは満足げな表情で、握手を求めるように手を差し出した。


『握手か?』


イヒョンも手を出し、彼の手を握り返した。


その瞬間、ケラムは左手でイヒョンの手の甲を覆い、低い声で詠唱した。


「Verum promissum(ウェルム・プロミッスム)」


『真実の約束』


その声は、先程までの快活さとは打って変わり、まるで神聖な呪文を唱えるかのように厳粛(げんしゅく)だった。 イヒョンが一瞬たじろぐと、ケラムは再びニカッと笑って空気を和ませた。


「ハハ、やはり予想通り、他所(よそ)の方ですな。ここでは重要な契約や約束を交わす際、こうして手を握り合って誓うのが習わしなのです」


「なるほど。遠方から来たもので、存じ上げませんでした」


イヒョンはぎこちなく笑って答えた。


「さあ、こちらへ。品物を確認していただきましょう」


ケラムが自分のテントの方へと案内した。


「少し待ってください」


イヒョンはケラムに断りを入れ、革の水筒を持ってリセラの方へ歩み寄った。


「必要な物は手に入りそうです。すぐに戻ります」


リセラは安心したように頷いた。


「ええ、いってらっしゃい。……あの方たち、悪い人たちではなさそうですね」


彼女は既にコルディウムを使って、ケラム一行の感情を読み取っていたのだ。 リセラは水筒を受け取ると、エレンを揺すった。


「エレン、起きて。喉を潤しましょう」


エレンは眠い目をこすりながら伸びをし、母親から渡された水をゴクゴクと美味しそうに飲み干した。 イヒョンはその平和な光景を少しの間眺めてから、ケラムの後を追って商団のテントへと向かった。


テントの中で、イヒョンは着ていた服を脱ぎ、ケラムに渡した。


テントの隙間から差し込む陽光が、イヒョンの白い肌の上に柔らかく降り注ぐ。


傷一つないその身体は、無駄がなく端正だった。 痩せ型ではあるが、引き締まった筋肉が浮き出ており、肩のラインは真っ直ぐだ。 長い腕と細い指は硬質で、利き手にはペンを長く握っていたせいで出来た、微かな「ペンだこ」だけがある。


その肉体は、過酷な肉体労働や戦闘とは無縁の、現代社会で節制された生を生きてきた人間の痕跡(こんせき)を、ありありと残していた。


ケラムは約束通り、上質なリネンのシャツとズボン、そして丈夫な革靴を出してくれた。 さらに、干し肉と堅焼きパン、ドライフルーツが入った小さな袋と水筒、そして大まかに描かれた地図一枚をオマケ(・・・)として付けてくれた。


イヒョンはずっしりと重くなった袋を提げ、リセラとエレンの元へ戻った。


「ありがとうございます」


リセラは花が咲いたように笑い、頭を下げた。 エレンはまだ寝ぼけ眼(まなこ)で水筒を抱きしめたまま、リセラの横に大人しく座っている。


イヒョンは二人の横の、日陰になった砂の上にドサリと腰を下ろした。


緊張の糸が切れた途端、体が鉛のように重くなり、瞼(まぶた)が鉄塊のように下がってくる。 疲労が潮(しお)のように満ちてきて、全身を飲み込んだ。


死の危機を脱し、恐怖から解放された最初の朝。


冷たい空気の匂い。 暖かい日差しの温もり。 喉を潤す水の清涼感……。


全ての感覚が、ここへ来て初めて、生々しい現実として迫ってきた。


彼はゆっくりと目を閉じた。


心は奇妙なほど軽かった。 この見知らぬ世界に放り出されて以来、初めて「生きている」という実感が、彼の魂を優しく包み込んだ。


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