第2話 男だとバレたのに、余計に興奮されるなんて聞いてません!~呪われ公爵の愛撫は甘すぎて~

「ちょ、ちょっと待ってください公爵様! 僕、男ですよ!? 男!!」


 天蓋付きの豪奢なベッドの上で、僕は必死に叫んだ。  状況は絶望的だ。  ネグリジェの裾は腰まで捲り上げられ、あろうことか僕の股間にある「証拠品」は、ジークフリート公爵の大きな手にしっかりと握られている。


 男だとバレれば、侮辱罪で処刑されるか、あるいはその場で斬り捨てられると思っていた。  それなのに。


「ああ、分かっている。男だ」


 公爵は、まるで宝物でも見つけたかのような、うっとりとした表情で僕を見下ろしていた。  赤い瞳が、ギラギラと怪しく光っている。


「だが、それがどうした? 俺にとって重要なのは、お前に触れても『吐き気がしない』という事実だけだ」 「えっ、あ、そういう……?」 「むしろ好都合だ。女の身体など、柔らかすぎて壊してしまいそうで触れるのもおぞましいが……お前なら、多少乱暴にしても壊れないだろう?」


 ニヤリ、と。  彼はこの世のものとは思えないほど美しく、そして凶悪な笑みを浮かべた。


「ひぃっ!?」


 捕食者の笑みだ。  僕は本能的な恐怖――というより、種の生存本能が警鐘を鳴らすのを感じて、ジリジリと後退る。  だが、逃げ場はない。背中はヘッドボードに密着し、両脇は彼の太い腕で塞がれている。


「観念しろ。……俺はもう、限界なんだ」


 公爵は焦れたように舌打ちをすると、自身の着ていた白いシャツのボタンを乱暴に引きちぎった。  ブチブチッ、と布が裂ける音がして、彼の上半身が露わになる。


「……っ! それは……」


 僕は息を飲んだ。  鍛え抜かれた彫刻のような肉体。しかし、その白い肌の上には、黒いつたのような不気味なあざがびっしりと浮かび上がっていたのだ。  首筋から胸、そして腹部へと這う黒い紋様。見ているだけで胸が苦しくなるような、濃密な瘴気を感じる。


「これが『女呪めじゅ』だ。女に触れられれば、この蔦が心臓を締め付け、腐肉を抱いているかのような幻覚と激痛を俺に与える」


 彼は僕の手を取り、自身の胸――心臓の上にある黒い痣へと導いた。


「だが、お前なら……」


 僕の指先が、彼の胸板に触れた瞬間。


 ジュワァ……ッ。


 まるで雪が熱湯に溶けるように、僕が触れた場所から黒い痣が消滅し、健康的な肌色が広がっていった。  同時に、僕の指先から腕を通って、体の奥底が熱くなる感覚が走る。


「あ……っ、ん……?」


 変な声が出た。  彼を浄化しているはずなのに、なぜか僕の方が気持ちいい。  頭がふわふわして、体に力が入らなくなる。


「はぁ……っ、やはり、素晴らしい……」


 公爵が熱っぽい吐息を漏らす。  苦痛が消え去った解放感からか、彼は僕の手を頬に押し当て、猫のように擦り寄ってきた。  さっきまでの「人食い公爵」という二つ名が嘘のような、甘えた仕草。   (なにこれ……かわいい、なんて思っちゃダメだ……!)


 ギャップにときめきそうになる僕を嘲笑うように、彼は僕の手のひらに口づけを落とし、濡れた瞳で僕を見上げた。


「お前に触れていると、泥沼から引き上げられたように呼吸が楽になる。……もっとだ。もっと俺に触れてくれ。俺もお前を味わいたい」 「公爵様、だめ……近いです……っ!」 「ジークフリートだ。……名前で呼べ」


 有無を言わせぬ口調で囁くと、彼は僕の唇を塞いだ。


「んむっ……!?」


 甘い。  ファーストキスはレモンの味だなんて誰が言ったんだ。  これは、もっと濃厚で、頭が痺れるような蜜の味だ。  彼の舌が強引に割り込み、僕の口内を蹂躙する。逃げようとする舌を絡め取られ、吸い上げられるたびに、腰の奥がズンと痺れた。


「ん、ぁ……ぷはっ!」


 ようやく唇が離れた時、僕は酸素不足で肩で息をしていた。  視界が涙で滲む。


「いい顔だ……。そんな顔で誘っているのか?」 「さそっ、誘ってなんかいません!」 「口ではそう言っても、身体は正直なようだが?」


 彼は意地悪く笑うと、大きな手を僕のネグリジェの中に滑り込ませた。  太腿の内側を、這い上がるように撫で上げられる。  彼の指先は熱く、触れられた場所が火傷したように熱を持つ。


「ひゃうっ! そこ、は……!」


 敏感な部分を掠めるように撫でられ、僕は背中を反らせた。  彼が触れるたびに、「浄化」の反動なのか、快感が倍増して脳に突き刺さる。  男同士で、こんなことがあり得るの?  いや、彼が「呪い持ち」で、僕が「聖女(男)」だからこその化学反応ケミストリーなのかもしれない。


「可愛い声だ。もっと聞かせてくれ」


 彼は僕の耳たぶを甘噛みしながら、もう片方の手で、僕の「前」を優しく包み込んだ。


「あっ、やぁ……っ!」 「ふむ。まだ準備が足りないか。……いや、ここは濡れているな」


 彼は一度指を引き抜き、僕の顔の前に掲げて見せた。  指先が、透明な液で濡れて光っている。


「先走りが出ているぞ。男のくせに、こんなに感じやすいのか?」 「ちが、う……それは……っ」 「違わないだろう。俺に触れられて、嬉しいんだろ? 俺もだ」


 彼は僕の言い訳を封じるように、再び首筋に噛み付いた。  今度は甘噛みではない。所有印キスマークを刻みつけるような、強い吸着。


「ああっ! あとが、残っちゃう……!」 「残すんだ。お前は俺の生贄はなよめだろう? 誰の目にも触れさせないが、万が一にも他の虫がつかないように、俺の匂いを染み込ませてやる」


 独占欲たっぷりの言葉に、背筋がゾクゾクと震える。  怖い。けれど、それ以上に胸が高鳴ってしまう。  誰かにこんなに強く求められたことなんて、一度もなかったから。


 ネグリジェのボタンが全て外され、薄い布が剥ぎ取られる。  僕は生まれたままの姿で、冷気と、それ以上に熱い彼の視線に晒された。


「綺麗だ……。白くて、細くて……本当に男なのか疑いたくなる」 「……男、です」 「ああ、そうだな。ここには可愛い鈴がついている」


 彼は愛おしげに僕の全身を撫で回すと、ベッドサイドから香油の瓶を取り出した。  蓋を開けると、薔薇とムスクの混じったような淫靡な香りが広がる。


「力を抜け。……痛くはしない。できるだけ、な」


 彼はたっぷりと油を指に絡ませると、僕の両足を大きく割り開いた。  恥ずかしさで顔を覆う僕の、その無防備な秘所に、冷たい油と熱い指先が触れる。


「っ……!」 「リラックスしろ。ノエル。……お前の中を、俺で満たさせてくれ」


 そこからの時間は、甘い拷問だった。  一本、また一本と増やされる指。  異物が入り込む違和感は、彼が執拗に「中の弱点」を擦り上げるせいで、すぐに抗いがたい快感へと塗り替えられていく。


「あ、あっ、そこ、だめぇっ! ジーク、さまっ!」 「いい子だ。そこが好きなのか? こっちはどうだ?」


 彼の巧みな指使いに、僕は恥も外聞もなく声を上げて泣いた。  男なのに。お尻で感じるなんて。  頭の何処かで冷静な自分がツッコミを入れているけれど、体はもう彼のリズムに支配されている。


「はぁ、はぁ……もう、十分だろう」


 不意に指が引き抜かれ、喪失感に襲われる。  だが、すぐにそれ以上の威圧感が、僕の股間に押し当てられた。


 彼自身の、猛り狂ったくさび。  ちらりと見えたそれは、凶悪なサイズで血管が浮き上がり、到底入りそうにもない。


(無理無理無理! 死んじゃう!)


 恐怖で身を竦ませる僕に、ジークフリート様は汗ばんだ額をこつん、と押し当てた。  その瞳は、情欲で濁りながらも、どこか切実な光を宿していた。


「ノエル。……愛しているとはまだ言えないが、俺にはもうお前しかいない。お前以外では、俺は男になれないんだ」 「……っ」 「頼む。俺を受け入れてくれ」


 そんな風に、縋るように言われたら。  断れるわけが、ないじゃないか。


 僕は涙目で、覚悟を決めて小さく頷いた。   「……優しくしてくれないと、嫌いです」 「善処する」


 彼は嬉しそうに破顔すると、僕の腰を強く掴み――。

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