第4話 契約という名の選択

 瓦礫だらけの高架下に、低い唸り声が反響していた。


「……来る」


 **鷹宮たかみやれい**が短く告げ、銃を構える。

 彼女の視線の先――暗がりの奥で、巨大な影が蠢いた。


【対象:モンスター】

【個体名:ヴァル=グリード】

【脅威ランク:A】


「A……!」


 零が小さく舌打ちする。

 今まで相手にしてきたBランクとは、明らかに格が違う。


 姿を現したのは、四足獣型のモンスターだった。

 分厚い外殻、異常に発達した前脚、そして口元から滴る黒い粘液。


「正面からは削れない。私が足止めするから――」


「無理するな」


 俺――**神代かみしろ朔夜さくや**は、前に出る。


 視界に情報が流れ込む。


【弱点:胸部内部】

【再生限界:高】

【推奨対応:複合攻撃】


「……連携しよう」


「言われなくても」


 零は即座に引き金を引いた。

 銃声と同時に、弾丸が不自然な軌道を描く。


 《弾道支配バレット・ライン


 モンスターの死角から弾丸が突き刺さり、注意を引きつける。


 だが――


「っ!?」


 ヴァル=グリードは、信じられない速度で踏み込んだ。


 弾丸を無視し、零へ一直線。


「零!」


 俺が叫んだ瞬間、

 前脚が地面を叩き割り、衝撃波が走る。


 零の身体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。


「……っ、が……!」


 立ち上がろうとするが、脚が動かない。

 外骨格の破片が、深く刺さっている。


 モンスターが、ゆっくりと近づく。


 ――間に合わない。


 《使え》


 頭の奥で、低い声が囁いた。


 《お前の力なら、救える》


 視界の隅に、警告が浮かぶ。


【魔神侵食率:上昇予測】

【推奨手段:権能拡張】


「……くそ」


 零が、必死に銃を構え直す。


「来ないで……! 朔夜、逃げて!」


 その声を聞いた瞬間、

 俺の中で、何かが決まった。


「……嫌だ」


 俺は、零の前に立つ。


 モンスターの咆哮が、至近距離で炸裂する。


 恐怖は、ない。

 あるのは――選択だけだ。


「零」


 俺は、振り返らずに言った。


「助かりたいか」


「……当たり前でしょ」


 即答だった。


 なら。


「――力を、貸せ」


 瞬間、世界が歪む。


【権能起動】

【契約系権能:未登録】

【代替処理を開始】


 魔神の声が、はっきりと響いた。


 《眷属化けんぞくか

 《我が力を分け与え、命を繋ぐ契約》


「……なに、これ……」


 零の身体を、黒紫の光が包む。

 傷口が、逆再生するように塞がっていく。


【対象:鷹宮零】

【状態:眷属】

【権能付与:限定耐性・能力補助】


 同時に、俺の中に重さが加わった。


 繋がった感覚。

 命と命が、細い糸で結ばれたような感触。


「っ……!」


 零が息を呑み、ゆっくりと立ち上がる。


「……私、生きて……?」


「……ああ」


 ヴァル=グリードが動きを止めた。

 俺を見るその目に、明確な恐怖が宿っている。


【存在格差:発生】

【対象、行動鈍化】


「今だ、零!」


「……了解!」


 零が引き金を引く。

 今度の弾丸は、俺が見た弱点へ、正確に吸い込まれた。


 俺も、拳を突き出す。


【下位能力無効化:最大】

【再生停止】


 コアが砕け、

 ヴァル=グリードは、地響きを立てて崩れ落ちた。


 静寂。


 戦いは、終わった。


 俺は、その場に膝をつく。


【警告】

【魔神侵食率:12%】


「……やりすぎ、だな」


 零が、俺を見下ろす。


 その目に、恐怖はなかった。

 あるのは――覚悟。


「……眷属、って言った?」


「ああ」


「つまり、逃げられない?」


「多分」


 一瞬の沈黙。


 そして、零は苦笑した。


「最悪。でも……」


 俺に手を差し伸べる。


「死ぬよりは、マシ」


 その手を、俺は取った。


 契約は、終わった。

 だが同時に、戻れない一線を越えたのも、確かだった。


 ――俺は、また一つ、人間から遠ざかった。


 それでも。


 この選択だけは、

 後悔していない。

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0.01%の魔神権能(オーバーロード)――無能力者が引き当てた、世界最強の一枠 羽蟲蛇 響太郎 @Kyotaro_1123

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