第3話 赫奕抜刀

 模擬戦は屋外の練習場で複数の舞台で別けられ、次々と行われていく。

 あえて格上を相手を倒して自分の実力を示すもよし。


 同格とのせめぎ合いを演じ、勝ち負けではなく魔術の才をアピールすのもよし。


「本当にこのフレイジャー男爵家がヒルビオに挑むのか? 今なら降参し、学園から去るというのなら見逃してやる」


 当然、格下を圧倒して、力を示すのもよし。


 ヒルビオと対峙し、その後方に目をやる。

 観客席には受験生……に学園の制服を着た上級生らしき人達もいる。

 特異理外者とくいりがいしゃの俺か、ヒルビオが実力者なのか。

 俺達の模擬戦は注目を集めているらしい。


「問題ない」


 改めて模擬戦用に着替えた服、いた刀に触れて状態を確認し、背筋を伸ばす。 


「よろしくお願いします」


 礼をする。


「殊勝な態度だが、手は緩めない。俺の魔力量は3000。一般的な成人の魔力量の平均がおよそ500。そしてグラジオ魔術学園の合格ラインとされるのは2000から。もちろん例外はあるが、0にいくらかけようが0なんだよ。合格率0」

「勉強になるし、結構ユーモアあるな、あんた」


 俺の感想がしゃくさわったのか、ヒルビオの顔が真っ赤になってしまった。


「余裕が言っていられるのは今のうちだ! いいか! 魔術とは己と世界! 二つの魔力の調和によってもたらせる恩寵おんちょうだ! 貴様には分からないだろうがな!」

「そうだな。俺にはさっぱり分からない」

「そーだよな! 魔力なしじゃ魔術の素晴らしさも神髄も一切理解できないよな! 無能で愚図ではあるが、可哀想になってきた!」

「だから、俺はあんた達が羨ましいよ」


 本当に、純粋に、そう思う。


「……っ! そうかい! なら見せてやる!」


 ヒルビオが手に火球を生みだした。


「分かるかい? これが初級魔術のファイアボール。子供だって適性があれば、ピンポン球くらいには生み出せるぞ。だが」


 火球がどんどん膨れ上がり、ついには手を掲げるほどに大きくなる。


「魔力量に比例して初級も十分な殺傷能力を持つってわけだ! よろしくお願いします!」


 ファイアボールが投げつけられる。


「俺にしてみれば、初級魔術でさえ奇跡に見えるよ。だから――斬り伏せたくなる」

「は? え? 消え……?」


 ファイアボールは俺に触れる前に両断され、霧散した。


「見えなかったのか? 斬ったんだよ」

「斬った? 俺の魔術を?」

「講釈はもういい。できるのなら昨日してほしかった。一点くらいあがったかもしれないし。さっさと全力でこいよ」


 だからこそ――相手の全力、最高最強の魔術を耐えきり、斬り伏せるのは楽しくて気持ちがいい。


「正気か? 魔力0の貴様が、この炎の名門である俺の全力を受けると?」

「そう言ってるだろ。どこの名門かは知らないけど、誇りにかけてこいよ」

「いいだろう! なら、その愚かさ! 身を焦がして悔いるがいい! 上級魔術であるインフェルノピラーでな!」


 俺の足下から火柱が噴き上がり、視界を炎で埋め尽くした。


 あっつ。


 でも、師匠の剛剣に比べたら余裕で耐えられるな。


「言っておくが、勝負をしようと言ったのは魔力なしの無能だ! 監督官殿! これは正当防衛ですよね! 回復魔術は適当にかけてやるから……」

「文句はない。正当防衛だ」

「は?」


 燃え盛る火柱の中、答える。


 本当に魔術って凄いよな。

 どうやって普段からこれだけの火柱を立てて、操れるんだか。

 さっぱり分からない。


 服が燃え尽き、肌が焼け焦げ、血さえ蒸発し、息苦しい。


 俺には魔力がない。

 当然、防御魔術は使えず、ノーガード。

 対魔装備がなければ、回避しなければ、魔術は100パーセントくらう。

 でも、俺はこれでいい。


「だから、俺も相応の正当防衛を行使させてもらう」


 右手に不死鳥の紋章が輝き――火柱が消えた。

 全てが灰と化して、降り積もる。


「後ろの人達、火傷したくなかったら逃げた方がいい」

「はあ? 何を言って……」


 ヒルビオを始めとした観客席の受験生は鼻で笑うだけ。

 さすがに上級生の人達はそそくさと去っている。


「……っ! 後方の諸君! 死にたくないなら左右に逃げなさい!」


 監督官が声を荒げたことでようやく人がいなくなった。

 灰まみれの身体で刀の柄に手を添え、腰を落とす。


灰燼転火かいじんてんか


 灰が灰に――灰色の炎となって燃え尽き、魔力に転化される。

 俺の全てが再生し、刀に集約される。


赫奕抜刀かくやくばっとう――」


 一歩前に、


鮮火せんか!」


 駆け、爆ぜる。


 ヒルビオの眼前で抜刀――炎の斬撃が観客席まで焼き焦がした。


 血は流していない。

 斬撃はヒルビオの身体に触れるすれすれに留めた。

 ヒルビオの髪が焦げ、服の袖が焼き切れ、肌を焼く程度に留めた。


「まだやるか?」


 焦げた臭いが鼻をつく中、ヒルビオに刀の切っ先を向ける。


「やり……ま、せん」


 言質を取ってから納刀し、最初の立ち位置に戻る。


「ありがとうございました」


 礼をすると、ヒルビオは気絶してしまった。


 ◆


「いやー愉快痛快。面白い戦い方をするね、君」


 舞台から下がり、練習場の連絡通路に出ると、先ほどの女の子――ラピスカレイドさんが出迎えてくれた。


「まあ、これしかできないからさ」

「おや? いいのかい? 私に手の内を晒して」

「いいさ。魔術が使えない以上、一芸特化はすぐバレるだろうし」

「潔さもよし。しかし――」


 ラピスカレイドさんの小さな可愛らしい、色白の手が俺の腹筋に触れた。


 え?


 女の子に触られた――情報が完結しない――女の子に触れられた?


「服は確かに燃え尽きたはず。なのに、元通り。身体も火傷一つない。綺麗なものだ。だがしかし、魔力は感じない」


 服を通して、俺の腹筋の上をラピスカレイドさんの、小さな可愛らしい、色白の手がさすさすしている。


 女の子にさすさすされた――情報が完結しない――女の子にさすさすされた?


「これが加護の権能というやつか。奇蹟に等しい理。実に味深いね。ちなみに加護の名称って――おっと、これは失礼。許可なく触ってしまい申し訳ない」


 ラピスカレイドさんがやっと手を離してくれたことで、俺の意識は再び動き出した。


 心臓が鼓動を増し、止まっていた全身に血を送る中、冷静に息を整える。


 謝罪する必要はなく、むしろ感謝したいくらいだけど、そんなことを言えるわけもなく。


 不敵に笑い、意味深な言葉をボソッと呟く。


「気にするな。これくらいどうと言うことはない。ちなみに加護の名称は【不死鳥】だ」

「なるほど、特異理外者は神話の幻想を再現すると謂われる。不死鳥――フェニックス。つまり、魔術殺しの脳筋にして……灰まみれの不死鳥くん、というわけだね」

「……そういうことになるな」


 どういうことなの。


 とりあえず今はラピスカレイドさんの話にあわせる。

 いまだ思考は正常にはなっていないから。


「ありがとう。いい刺激になったよ。お礼に私もちょっとやる気を出して、頑張ろうかな。よければ見ていてくれたまえ」

「そうさせてもらおうか」


 ラピスカレイドさんは意気揚揚と模擬戦の舞台にあがり――、


「おやおや? どうしたんだい、急に倒れて。お腹でも痛くなったのかい? この魔力0.1しかない私を前にへばるなんて。これでは君が最弱王になってしまうよ?」


 倒れ伏した対戦者の女の子を、ラピスカレイドさんは杖でツンツンしている。


 ラピスカレイドさんは動かず立ったまま、何もしていないように見えた。

 でも、何かしたのは分かった。


 一瞬、青白い、瑠璃色の光が対戦者の女の子を貫いた。


 俺は魔力を感覚で捉えているから、魔術の術式、詳細を暴くのが苦手だ。

 だから加護前提の受け特化で、把握しやすいようにしているわけだし。


「返事がない屍のようだ。監督官殿、これは私の勝ちと見てよろしいですね」


 しかし……都会の女の子は可愛くて、えげつない。

 監督官の承認を得て、ラピスカレイドさんは戻ってきた。


「ラピスカレイドさん、お疲れ様――」

「リゼでいいよ」


 なぜ、リゼ?

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2026年1月13日 12:00

世界最高峰の魔術学園で魔力0の田舎貴族、刀と【不死鳥】の加護でカウンター特化の一撃必殺で最強目指して爆ぜ駆ける 春海たま @harumigyokuro

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