第2話 病弱薄幸超絶美少女
翌日、早めに宿を出る。
グラジオ魔術学園に到着すると、既にたくさんの受験生が列をなしており、圧倒される。
家族や従者を連れている人もいる。
一人の俺は受験生の列の最後尾に並び、周囲を観察する。
見知った顔など一人もいない。
ということは、見知らぬ魔術にたくさん触れられる。
俺は魔術を扱えないけど、嫌いじゃない。
むしろ凄いと思っている。
魔力自体なんか超凄い不思議パワーと思っているし。
そうして俺の番が来て、受付の係員に推薦状を手渡す。
「剣聖――強刃のキョジーン・アウトマン様の推薦状!? しかも……特異理外者? あの特異理外者? 本当、ですか」
受付の係員が驚きの声を上げると、周囲がざわつき始めた。
「申し訳ありません。上に確認を取りに行きますので、しばらく控え室でお待ちください。こちらにどうぞ」
「分かりました」
係員についていく。
師匠の名前よりも――俺の方に注目が集まっている感じだ。
好奇、興味、疑念……
視線や動きから色んな感情が読みとれる。
一番はやはり物珍しさ、だろうか。
そうか、これが外での反応なのか。
家族はもちろん、村のみんなも俺が特異理外者だろうが、当たり前に接してくれた。
まあ、珍しいから当然だよな。
◆
「お待たせしました。剣聖――強刃のキョジーン・アウトマン様の推薦人であると確認がとれました。こちら、受験番号です。では、受験会場へどうぞ」
「ありがとうございます」
係員の許可を得て、受験会場に向かう。
一日目は筆記試験。
筆記試験はグラジオ魔術学園の教室で行われる。
教室だけでもなんかこう、歴史があるな、と一瞬、視線を感じる。
何人かが俺を見たけど、すぐに目をそらしていた。
もう顔バレしているとは光栄と思いつつ、席に座る。
師匠曰く筆記試験は受けるだけでいいと言っていたけど、真面目に勉強はした。
とはいえ、基礎魔術学は苦手だ。
俺だけ身体一つで体験ができない。
見るか、読むか、魔道具で疑似体験くらいだ。
設問自体が、実際にやったら分かるでしょ? 前提みたいなのもある。
まあ、
言い訳はこの辺にして。
いい点をとれるように頑張ろう。
◆
一日目の頭を使う筆記試験を乗り越え、二日目は魔力測定、模擬戦、面接となっている。
まずは会場で行われる魔力測定。
「ロス・グレイハート……君は、本当に魔力がないのか?」
担当官は驚きの声を上げた。
「あるにはあるらしいんですが、普段は0で。その、すみません」
「謝らなくていい。気分を悪くさせてしまったのならすまない。しかし、そうか……これが特異理外者。特異なる加護を持ち、世界の理の外にある者。実に興味深い。ありがとう。下がっていいよ」
言われたとおり下がり、隅っこで壁により掛かる。
みんなの魔力測定を観察する。
この後に控える模擬戦はこの場にいる誰かと魔術を競い合う。
つまり、この時点で対戦相手の情報を一つでも手に入れておくのは大事だ。
魔力測定は水晶と測定器が組み合わさった魔道具が使われる。
水晶に触れると特定の属性の光を放ち、保有する魔力量によって輝きが増す。
そして、測定器で数値が示され――と、会場全体を目映い桃色の光が満たした。
「――!? こ、これほどの輝きとは!? 保有魔力9999……計測不能!? さすがブラッドフォース侯爵家のご令嬢!」
「ありがとうございます」
ピンク色の髪をした女の子が深々とお辞儀し、静かに去っていた。
イルシア聖教の礼装だ。
グラジオ帝国でも布教されており、正教として扱われている。
ブラッドフォース侯爵家は……聞いたことがない。
イルシア聖教の礼装をわざわざ着るくらいだし、隣国のイルシア聖王国の出身なのかな。
受験ですら自国や家を誇示する場になっているとは恐ろしい。
「リーゼロッテ・ラピスカレイド……魔力1?」
今度は逆に最小の測定値を耳にし、そちらに目を向ける。
「壊れているのかな? もう一度……あれ、魔力、0.1?」
測定不能はあれど、魔力測定器はたとえ魔力0.1でも計測してくれる。
水晶は瑠璃色の光が極小で明滅している。
器用な真似をしているな。
それにしてもラピスカレイドは……どこかで聞いたような。
「ふふっ。今日も私は病弱薄幸超絶美少女だね」
カツカツと左手で杖を突いて、その魔力0.1の女の子が俺の方にやってきて……隣に並んだ。
……なぜ?
長髪は瑠璃色のグラデーションを描き、見惚れるくらいに美しかった。
思わず目を奪われそうになる。
平静をよそおい、魔力測定の観察を続ける……ふりをする。
「見ていたかい? 君より魔力が0.1上の私を」
話しかけられてしまった。
どうしよう。
答えるべきなのか。
答えちゃって、いいのか?
師匠の言葉を思い出せ。
不敵に笑い、意味深な言葉を。
「見ていたよ。うまいこと隠す。魔力も、その杖も」
女の子の目を見て言ったやった。
綺麗な紫色の瞳が一瞬、揺れた。
「さて、なんのことかな。私はただの病弱薄幸超絶美少女さ」
色白で――でも、病弱薄幸を否定するような都会で、帝都なスタイル。
まごうことなき超絶美少女。
「……確かに君は超絶美少女だな」
なんて前半部分を口に出せるわけないので、同じ言葉を繰り返す。
「そうだろう、そうだろう。君、いい目をしているじゃないかっ」
女の子は楽しげに、可愛らしい声で笑う。
入学どころか、受験でこんな可愛い女の子と話せるなんて、師匠、帝都って凄いんですね。
心の中で涙を流す。
「リーゼロッテ嬢。由緒正しきラピスカレイド公爵家の君が、そんなどこの馬の骨とも分からない奴と話すのはやめた方がいいよ」
また新たな男子がやって来た。
見るからに派手な赤色の意匠をこらした服で……あ、思い出した。
ラピスカレイドと言えば、帝国の東方を治める公爵家じゃないか。
皇族とも
……なぜ、そんな子が俺に話を?
やっぱり特異理外者の俺が珍しいのかな。
「知ったことか。私は彼と楽しく、面白おかしく、談笑しているんだよ。水を差すのはやめてくれないかな?」
……いや、俺も知りたいんですけど。
「お言葉ですが、時間の無駄だと思いますよ」
男子があからさまな敵意を俺にぶつけてくる。
「魔力0の特異理外者? 初級魔術も使えない愚図が名門であるグラジオ魔術学園の歴史に耐えられるわけがない。そもそも不合格が目に見えている」
……は?
今、なんて言った?
「名も知らぬ君よ。もしかしたら同期になるよしみとして、忠告しておくよ。下品極まりない暴言はやめたまえ。君の発言はいずれ君の家、家臣、領民の重荷となる。なによりも受験生ということを忘れるな。今も監督官が目を光らせて――」
女の子の言葉を手で
「じゃあ、勝負するか?」
師匠にも苦言を呈されたけど、俺は見た目に反して沸点が低いらしい。
もちろん多少の侮り、バカにされても聞き流せる。
だが、限度がある。
愚図と言われたら、もう黙っているわけにはいかない。
熱くなるのはいい、冷静さは失うなと口を酸っぱくされて言い続けられた。
「は? 誰が、誰と?」
「俺が、あんたと」
だから冷静さだけは失わずに言う。
「この学園、実力主義なんだろ? この後の模擬戦でやろう。それとも何か? 俺に負けるのが怖いのか? 魔力0の俺に負けるのが」
「貴様……! いいだろう、このフレイジャー子爵家が嫡男! ヒルビオが特別に受けて立つ!」
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