世界最高峰の魔術学園で魔力0の田舎貴族、刀と【不死鳥】の加護でカウンター特化の一撃必殺で最強目指して爆ぜ駆ける

春海たま

第1話 田舎貴族の長男、帝都に乗り込む

「ロス・グレイハート。見事だ。この私から一本を取るとはな。さすがわし様が見込んだ愛弟子だ」

「ありがとうございます。師匠」


 木刀を師匠の喉元から引く。

 稽古に使用している庭には師匠の大木剣が粉々に散らばっている。

 ようやくつかみかけた剣の境地。


 興奮を静めるべく息を吐き、


「故にもうお主に教えることはない」

「え?」


 冷や水を浴びせられ、一気に冷静になった。


「そんな……まだ、一本。今日やっと。初めて師匠から一本とれたんですよ? まだ教わりたいことがたくさん――」

「情けない顔をするな、ロス。剣聖であるわし様から一本をとったのだ。誇れ。もうわし様でさえ相手にならん。わし様も老骨ろうこつ、いい歳だからな」


 師匠は俺の肩に手を置き、優しく微笑む。


 確かに師匠の外見は白髪の老人で、彫りの深い皺が刻まれた顔立ちだ。

 だけど、俺の肩に置く手は分厚い。


 膂力りょりょくは健在、剣の腕は語るまでもない。

 まだ受け入れられない俺を慰め、師匠は隅に置いてあった包みを漁り始めた。


「そこで餞別せんべつとして推薦状をしたためておいた……どこだっけ」

「推薦状、ですか? 冒険者ギルドや傭兵ギルド、自警団に騎士団とか――ですか?」

「それは卒業後の進路だろう。まあ、ロスはグレイハート男爵家の長男、次期当主だ。好きに選べるかは分からんが、まずはここでさらなる腕を磨くがいい。おお、あった、あった。ほれ」


 渡された推薦状に書かれていた名前は――国立グラジオ魔術学園。


「……国立グラジオ魔術学園って。超名門校じゃないですか」


 我らがグラジオ帝国の名を冠する学園、というだけで推薦状さえ重く感じる。


 魔術の才で名を挙げた貴族達が通う、学び舎。

 平民が成り上がろうと野心に燃えて挑む、学び舎。


 入学すれば政財界の後継者達と繋がりが作れ、進路も引く手あまた、将来は安泰という噂だ。


 王侯貴族から平民まで、国内外問わず、魔術の才に秀でた者なら拒まない実力主義。


 そう、魔術の才に秀でた者ならば――つまり、俺は。


「師匠も知ってるはずですが、俺は魔術使えませんよ?」


 世界には魔力が満ちあふれている。

 生まれてくる人々は多かれ少なかれ、魔力を有し、適性のある魔術が扱える。

 だからなのか、魔術の才で優劣が決まることが多々ある。


 でも、俺は生まれつき魔力がなかった。

 男爵の父さんや母さんはもちろん魔力があるし、妹だって当然のよう魔術が扱える。


 俺だけが、0。

 魔力がないのなら魔術は扱えない。


「ロスよ。どこの学び舎に行こうが、魔術は必須科目だぞ」

「それは、分かっていますが」


 それが世界の理。


 俺はもう当たり前に受け入れている。

 魔道具は充実しているし、生活に困ったことはほとんどない。


「魔術が使えない心配はするな。グラジオ魔術学園には特例がある。未だ実例はないらしいが、特待生ならぬ、特異生とくいせい制度がな」

「特異生? つまり特異理外者とくいりがいしゃの受け入れ制度、ということですか?」

「おお、いいぞ。今度は物わかりがいいではないか。感心、感心」


 右手に意識を向ける。


 すると灰色の鳥の紋章――【不死鳥】の加護がぼんやりと浮かび上がった。


 俺はこの加護に魔力のリソースを全て取られている、らしい。

 だから普段は魔力が0、皆無という不思議な体質だった。


 特異なる加護を持ち、世界の理の外に在る者――それ故、特異理外者と呼ばれている。


 存在は希少で、世界でも類を見ない。

 まだまだ謎が多い。

 俺自身でさえ、しっかり把握できているわけじゃないからな。


「わし様も剣聖にして、ここの卒業生だ。顔が利く。今のお主に必要なのは同世代の切磋琢磨せっさたくまできる環境だ」

「……分かりました。有り難く頂戴します」


 帝都の名門、しかも魔術学園で学ぶ実感はまだないけど、師匠の好意を無下むげにはできない。


 実際に通うかはともかく、見もせずに断るのは失礼だ。 


「うむ。ロスも知ってるとおり帝都はいいぞ。偉大な帝国の首都だ。国の中枢だ。つまり、その縮図たる一つの学び舎に集いし、女の子達は綺麗から可愛い、儚げに不思議にちょっと……まあ、重め、多種多様、千差万別よ」


 力強い眼差しの師匠にハッとし、見返す。

 魔力0とか加護よりももっと大事なこと――そう察知し、姿勢を正す。


「女の子とお近づきになりたいだろう?」

「女の子とお近づきになりたいです」


「女の子と仲良くなりたいだろう?」

「女の子と仲良くなりたいです」


「女の子と手を握ってデートしたいだろう?」

「女の子と手を握ってデートしたいです!」


 だって俺が暮らすヘルバ村って、同世代の女の子がいないから出会いがない……!


「その意気や良し!」


 師匠が腕を組み、大声を上げる。


「だが、邪なモテ欲を表に出せば女の子は逃げていく。彼女たちはものすごーく勘が鋭い。乙女心は繊細で敏感だ。煮えたぎる熱いモテ欲は今! ここで! 心の鞘に収めよ!」

「はい!」

うれうな。案ずるな。強請ねだるな。いずれ心の刀を抜く日がくる。それまでは今までどおり剣の道を極めるべく、邁進まいしんせよ。剣の道とは即ちモテ道に通じる。大言壮語、あえて見栄を張り、夢を語れ。常に意味深な言葉を心がけよ。ミステリアスな男の子はモテる。わし様調べでな」

「はい!」


 直立不動で返事をし、ふと疑問に思う。


「ところで師匠はこれからどうするんですか?」

「遙か遠い故郷で……愛しの妻、世話の焼ける子供達、可愛い孫達がじいじを待っているのでな」

「そうだったんですか。なのに三年間、ここで暮らして俺の修行に付き合ってくれるなんて……ありがとうございます」


 改めて今までの月日、鍛錬に感謝し、頭を下げる。


「礼には及ばんよ。わし様も刀は初心者だったからな。お主と築き上げた術理、若かりし頃を思い出して楽しかったぞ」

「俺も楽しかったです。最初は刀とは思いませんでしたが、自分との相性を考えると一番理に適っていました」

「うむ。新しきことを始め、知ることはいくつになっても楽しいものよな。しかし、まさに合縁奇縁あいえんきえんよ。うわ――じゃなくて、勝手におやつ食べて追い出された先で、特異理外者にして天賦てんぷの才と巡り会うとはな」

「そんな経緯があったんですか、初耳です」


 師匠は俺に気をつかって冗談を言う。


 いつまでも弱気になってちゃいけない。


 様々な魔術を操る同世代と戦うのが楽しみじゃないと言えば嘘になる。

 さらに女の子とお近づきになる機会まであるのだ。


 戦い、強くなれば自然と心の刀を抜く日が訪れる。

 師匠の期待に応える意味でも、挑戦しない理由はない。


「う、うむ。お主は爽やか好青年フェイスだ。いつの日か、長い旅路の果て。この故郷にハーレム御殿の錦を飾るだろう。風の噂で聞くのを大いに楽しみにしているぞ」

「ありがとうございます――いえ、さすがにハーレム御殿? はハードル高すぎませんか?」

「何を言う! 愛弟子よ! 男の子なら夢はでっかく持て!」

「は、はい!」


 思わず返事をしてしまった。

 剣の道は真っ当でいいとして、ハーレム御殿は大きい夢なのだろうか……?


「そこで一つアドバイスをしておこう。帝都で暮らしていく処世術をな」

「ありがとうございます」


 慎んで傾聴けいちょうする。


「困った時、よく分からない時、状況が見えない時、とにかく意味深な言葉を呟き、不敵に笑って誤魔化せ。もちろん、分からないままはよくないから、何げなく質問するように。わし様もかつてこの裏技で学園生活の荒波を乗り切った」

「ありがとうございます! 心に刻みます!」


 ◆

 

 受験前日、魔導列車から駅へと降りる。


 グラジオ帝国、帝都ヘイルーン。

 アベリア大陸最大国家の首都だ。


 家族と年に一度、皇族主催の舞踏会にお呼ばれについて来たくらい。

 毎回思うけど、発展ぶりが凄まじい。


 ヘルバ村と同じ国にあるとは思えない。

 村には駅なんてないし、華やかでオシャレな服なんて見ない。


 辺境の田舎貴族の俺に比べたら、帝都で暮らす人々の方がよっぽど貴族然として堂々としている。


 これが帝都……これが都会。

 そして明日、名門を受験するのか。


 両手を握り、力を込め、息を吐く。

 都会の空気に圧倒されるな、俺。


 師匠、父さん、母さん、妹、村のみんなの期待を背負っているのだ……で、グラジオ魔術学園はどこだろう?


 明日迷子になって遅刻はまずいので、駅員さんに聞いて下見に向かう。

 丁寧に道順を教えてくれたおかげで迷わず歩める。


 都会だろうと人だけは変わらないのだと、安堵し……広っ。

 グラジオ魔術学園は途方に暮れるくらい広大な敷地にあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る