Under the “X”ea-Party♪【4】


「あなたたち、本当に息ぴったりね。……いいわ。どうせ話すところだったもの。アイツのことね」


 彼女は目を伏せ、静かに語り始めました。


「カレとは……ふたりが想像してたとおり、わ」


「お〜! やっぱり!」


「…………ん? 『付き合ってた』?」


「そう。将来の話もしてたし、あたしもその気でいたんだけど……。カレ、奥さんと子どもがいたの」


 彼女の口から明かされたのは、予想を大いに裏切る残酷な真実でした。


「「え…………」」


 交際は順調に行っているものだと信じ切っていた二人の人魚は、氷漬けにされたようにその場に固まってしまいました。


「……偶然、家族でいるところを見ちゃってね。次、会ったときに本人に確かめて……。確かめたっていっても、その時点でほぼ黒だとは思ってたし、何も言わないで別れを切り出したの」


 しかし、本人は最後まで話す気でいるようで、淡々とした口調でその身に降りかかった災難を並べていきます。


「そ、そしたら……?」


「『オマエはいざとなれば、相手なんて必要ないだろう』って言われて……。そのあとも『男になったり女になったり気持ち悪い』とか言ってたかしらね……」


 結んだ唇からは、細かな泡が生まれます。それは、彼女の言い表せぬ感情をこぼす、唯一の手段のようにも見えました。


 雌雄同体の彼女は、一人で子供を作る事が可能でした。


 それは、海の世界でも当然スタンダードな特性ではありません。


 ゆえに、彼女のような個体を羨んだりやっかんだりする者も、海の世界には少なからずいたのです。


「うわぁ…………」

 

「極めつきは『女はもっとバカなほうがかわいい』ですってよ」


「威張るしか能のないバカ男の常套句じゃん……」


「本当ね。笑っちゃう。そんな奴のことが一度でも素敵に見えたなんて、あたしも見る目がなかったわ」


「そんなことないよぉ……。たまたま本性を隠すのが上手すぎる人魚に当たっちゃっただけ…………」


「……ありがとう。あんなクズ、いまとなってはこっちから願い下げだけど、奥さんと娘さんたちが心配になっちゃって……」


 彼女の脳裏に浮かんだのは、幸せそうな家族連れ。


 ――――ですが、恋人時代の外面のよさを考えれば、疑ってしまうのも必定。

 

 家では威張り散らし、無体を働いているかもしれません。


 そんな事を考え出したら、自己憐憫に浸っている場合ではなくなってしまったのです。


「そっか……。でも、うちは正直、面識ないその人たちよりあなたのほうが心配だな〜。どんなときも他の人に優しくできるのはいいところだと思うけど、そんなふうに言われるのは悔しいよ……」


「私も。嫌な事思い出させちゃってごめんねぇ……。次からは喋りたくない事は無理に喋らなくていいし、こっちも変な事訊かないように気を付けるから…………」


 二人の人魚はまたも反省を始めます。


「ありがとう。でも、話したほうが楽になる事もあるの。いま聞いてもらったことだって、独りで抱えていくのはしんどいもの。貴女たちが嫌じゃなければ、これからも頼ってもいいかしら?」


「当たり前じゃん!」


「どんどん頼ってねぇ」


「…………じゃあ、今度は惚気ちゃってもいい?」


 ぱっと声色を変えた彼女は、今日一番幸せそうな顔で二人に尋ねました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る