第6話 いきなりマイナス4万円。それでも、画面を閉じなかった日
コーヒーをひと口飲んで、スマホを見た。
……あれ?
数字が、赤い。
しかも、さっきより増えている。
-38,000円
「……え、うそでしょ」
たった数日前に買った株。
たいして調べたわけでもなく、
「なんか良さそう」で選んだ、あの銘柄。
画面の中で、
私のお金が、静かに削られていた。
「投資って、やっぱり怖い」
頭に浮かんだのは、
ずっと親から言われてきた言葉だった。
「株は怖いぞ」
「そんなの、ギャンブルだ」
「素人が手を出すもんじゃない」
……やっぱり、そうなのか。
まだ何も分かっていないくせに、
私はもう、
「失敗した人」の側に立っている気がした。
コーヒーは、さっきより少し苦く感じた。
すぐ売れば、傷は浅い?
「ここで売れば、
まだ4万円のマイナスで済む」
頭の中で、
そんな計算だけがぐるぐる回る。
でも、指が、売却ボタンにいかない。
理由は、特別なものじゃない。
ただ――
自分が何も分からないまま終わるのが、悔しかった。
「なんで下がってるのか」
「この会社は、何をしてるのか」
「そもそも、私は何を買ったのか」
負けたくなかったのは、
お金じゃなくて、
何も知らない自分だった。
はじめて、会社を調べた
それまでの私は、
株を「数字」でしか見ていなかった。
チャート。
株価。
上がった、下がった。
でもこの日、
はじめてその会社のことをちゃんと調べた。
・どんなサービスをしているのか
・誰に使われているのか
・どんな強みがあるのか
すると、少しだけ景色が変わった。
「あ……これ、意外とちゃんとした会社じゃん」
もちろん、
すぐに株価が戻る保証なんて、どこにもない。
それでも私は、
ただの赤い数字だったものの裏側に、
人と事業があることを、はじめて意識した。
マイナス4万円で、買ったもの
その日、株価は戻らなかった。
結局、含み損は約4万円。
決して、笑って済ませられる額じゃない。
でも、私は不思議と、
思ったほど落ち込んでいなかった。
なぜなら、
その4万円で、私はひとつ手に入れていたから。
「投資は、数字のゲームじゃない」という感覚。
・会社のことを知ること
・サービスを見ること
・街の中で「これ、あの会社だ」と気づくこと
それは、
ニュースでも、YouTubeでも、
口座を作っただけでも、得られなかった感覚だった。
怖い。でも、やめなかった
もちろん、怖さが消えたわけじゃない。
「また下がったらどうしよう」
「自分、向いてないんじゃないか」
そんな不安は、ずっとあった。
でも、私はその日、
アプリを消さなかった。
口座も閉じなかった。
投資を続ける理由が、
儲けたいだけじゃなくなっていたから。
「この世界を、もう少し知りたい」
ただ、それだけだった。
コーヒーを飲みながら、思ったこと
店を出る前、
私はもう一度、コーヒーを飲んだ。
さっきより、
少しだけ、苦味がやわらいでいる気がした。
マイナス4万円。
でもそれは、
私がこの世界に一歩踏み込んだ証拠でもあった。
投資は、
怖い。
でも同時に、
世界の見え方を、
少しだけ変えてくれるものだった。
☕ 今日のまとめ
・最初の損失は、ほぼ通過儀礼だった
・数字の裏に「会社」と「人」があると知った
・お金より、「見方」が変わったことの方が大きかった
・怖くても、やめなかった。それが、私の最初の一歩だった
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