第23章「空間の崩壊」

孤児院の完成から一年。


 建吾は、新たな挑戦に取り組んでいた。


「橋を作る」


 建吾は、設計図を広げながら言った。


「この国には、大きな川が何本もある。橋がないから、人や物の移動に時間がかかる。橋を作れば、経済が活性化する」


 リーゼロッテは、設計図を見つめた。


「これは……今までの橋とは、全く違う構造ですね」


「ああ。吊り橋だ。両岸に塔を立て、そこからケーブルを張って、橋桁を吊る。従来の橋より、はるかに長いスパンを架けられる」


「すごい……」


「ただ、問題がある」


 建吾は、眉をひそめた。


「ケーブルの材料だ。従来の鉄では、強度が足りない。ミスリルなら可能だが、量が足りない」


「どうしますか」


「新しい合金を開発する」


 建吾は、別の紙を取り出した。


「ミスリルと鉄を混ぜた、新しい合金。ミスリルの強度と、鉄の加工しやすさを兼ね備えたものだ」


「そんなことが、可能なのですか」


「わからない。だが、やってみる価値はある」


      ◇  ◇  ◇


 新合金の開発には、ゴルドとシルヴァが協力した。


 ゴルドは、ドワーフの鍛冶技術を駆使して、さまざまな配合比を試した。


 シルヴァは、エルフの魔法知識を活かして、合金の特性を分析した。


 何度も失敗を繰り返し、何度も最初からやり直した。


 そして——


「できた」


 ゴルドが、一本の金属棒を持ってきた。


「これが、新合金だ」


 建吾は、金属棒を受け取った。


 軽い。だが、曲げようとしても、びくともしない。


「強度は」


「ミスリルの八割。だが、加工性は鉄より良い。量産も可能だ」


「素晴らしい」


 建吾は、金属棒を見つめた。


「これで、橋が作れる」


      ◇  ◇  ◇


 吊り橋の建設は、一年半かかった。


 川幅三百メートルの大河に、世界初の長大吊り橋が架けられた。


 開通式には、国王自らが出席した。


「墨田建吾」


 国王は、建吾の前に立った。


「そなたの功績は、計り知れない。魔王を倒し、国を復興させ、そして今、この橋を作った。そなたこそ、この国の英雄だ」


「英雄ではありません」


 建吾は、首を振った。


「俺は、ただの内装工です」


「内装工……」


 国王は、わずかに笑った。


「そなたは、いつもそう言うな」


「事実ですから」


「だが、そなたのような内装工は、世界に一人しかいない」


 国王は、建吾の肩に手を置いた。


「これからも、この国のために、働いてくれ」


「……はい」


 建吾は、深く頭を下げた。


      ◇  ◇  ◇


 橋の上から、建吾は景色を眺めていた。


 川の水が、ゆっくりと流れている。


 対岸には、人々の姿が見える。橋を渡る準備をしている商人や、見物に来た住民たち。


「いい景色だな」


 傍らには、リーゼロッテがいた。


「はい」


「この橋を、多くの人が渡る。物が運ばれ、人が行き来し、この国が豊かになる」


「ケンゴ様のおかげです」


「俺だけじゃない。ゴルド、シルヴァ、マルコ。学校の生徒たち。多くの人が、協力してくれた」


 建吾は、遠くを見つめた。


「俺一人では、何もできない。仲間がいるから、ここまでやってこれた」


「それは……私も、含まれていますか」


 リーゼロッテの声は、少し恥ずかしそうだった。


 建吾は、彼女を見た。


「当たり前だ」


「……嬉しいです」


 リーゼロッテは、建吾の腕に自分の腕を絡めた。


 二人は、しばらく無言で、景色を眺めていた。


 風が、穏やかに吹いていた。


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