第22章「最後の施工」

建築学校が開校してから三年。


 学校は、順調に発展していた。


 卒業生は、すでに百人を超え、各地で復興事業に従事している。


 建吾の技術は、少しずつ、だが確実に、この世界に広がっていた。


「師匠」


 ある日、マルコが建吾の元を訪れた。


 彼は、今では学校の教師として活躍している。


「南部地区から、依頼が来ています」


「どんな依頼だ」


「孤児院の建設です。戦争で親を失った子供たちを、収容する施設を作りたいと」


 建吾は、依頼書を受け取った。


 孤児院。


 それは、建吾にとって、特別な意味を持つ依頼だった。


 マルコも、かつては孤児だった。親を亡くし、行き場をなくし、日雇い労働で生計を立てていた。


 建吾が彼を弟子にしていなければ、どうなっていたかわからない。


「引き受ける」


 建吾は、即答した。


「俺が、設計する」


「師匠が、直接ですか」


「ああ。これは、大事な仕事だ」


      ◇  ◇  ◇


 孤児院の設計には、一ヶ月かかった。


 建吾は、細部にまでこだわった。


 子供たちが安全に暮らせるように。明るく、暖かく、居心地の良い空間になるように。


 窓は大きく取り、自然光が入るようにした。床は滑りにくい素材を使い、角は丸くした。壁には、柔らかい色を塗った。


「これが、孤児院の設計図です」


 建吾は、完成した図面をリーゼロッテに見せた。


 リーゼロッテは、図面を見つめて、目を潤ませた。


「素敵な建物ですね」


「そうか」


「はい。子供たちが、幸せに暮らせそうです」


「だといいが」


 建吾は、図面を丸めた。


「さて、施工に入るか」


      ◇  ◇  ◇


 孤児院の建設には、半年かかった。


 建吾は、自ら現場を指揮した。


 ゴルドが石を積み、シルヴァが木を加工し、マルコが職人たちを管理する。


 学校の卒業生たちも、多く参加した。


 彼らは、建吾から学んだ技術を、存分に発揮していた。


「師匠」


 工事が終わりに近づいたある日、マルコが建吾に近づいてきた。


「この孤児院、本当に立派ですね」


「そうか」


「俺……嬉しいんです」


 マルコの目に、涙が浮かんでいた。


「俺みたいな子が、ここで暮らせるんだと思うと……」


「お前みたいな子を、増やさないためにも、この国を良くしていかないとな」


 建吾は、マルコの肩を叩いた。


「お前も、その一翼を担っている」


「はい……」


 マルコは、涙を拭いながら頷いた。


 孤児院は、予定通りに完成した。


 開院式には、多くの人々が集まった。


 建吾は、壇上には立たなかった。


 主役は、ここで暮らす子供たちだ。建物を作った人間は、裏方でいい。


 建吾は、人混みの中から、孤児院を見上げていた。


 明るい色の壁。大きな窓。柔らかな光。


 子供たちが、笑いながら建物に入っていく。


 それを見て、建吾は静かに微笑んだ。


 これが、俺の仕事だ。


 人が生きる場所を、作る。


 それだけで、十分だ。


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