第21章「下地を崩せば壁は倒れる」

建築学校が開校してから半年。


 学校には、各地から生徒が集まっていた。


 人間、ドワーフ、エルフ。種族を問わず、建築を学びたい者たちが集まってくる。


 建吾は、自ら教壇に立ち、技術を教えていた。


「今日は、『隠蔽部』について話す」


 建吾は、黒板に図を描きながら説明した。


「隠蔽部とは、完成した建物からは見えない空間のことだ。配管、配線、断熱材。それらを通すためのスペースが、壁や天井の裏側にある」


 生徒たちは、真剣にメモを取っていた。


「隠蔽部は、普通の人には見えない。だが、建築を学んだ者には見える。壁の厚さ、柱の位置、床の構造。すべてが、隠蔽部の存在を示している」


 建吾は、生徒たちを見回した。


「魔王城を攻略したとき、俺は隠蔽部を見つけた。そこに、魔法の核が隠されていた。それを破壊することで、城を崩壊させることができた」


「先生」


 一人の生徒が、手を挙げた。


「どうすれば、隠蔽部が見えるようになりますか」


「経験だ」


 建吾は、簡潔に答えた。


「数多くの建物を見て、触って、理解する。そうすれば、隠蔽部が見えるようになる。近道はない」


 生徒たちは、頷いていた。


 建吾は、教壇を降りた。


 授業が終わると、リーゼロッテが近づいてきた。


「お疲れ様でした」


「ああ」


「今日も、熱心に教えていましたね」


「当然だ。中途半端なことは、教えたくない」


 建吾は、窓の外を見た。


 校庭では、生徒たちが実習を行っていた。ミスリル製のLGS材を組み立て、壁を作っている。


「あの子たちが、将来、この国の建築を支えるんだ」


「はい」


「だから、ちゃんと教える。手を抜かない」


 リーゼロッテは、微笑んだ。


「ケンゴ様は、本当に職人ですね」


「内装工だ」


「はい。内装工です」


 二人は、しばらく窓の外を眺めていた。


 穏やかな時間だった。


 戦争は終わり、復興は進み、学校は軌道に乗っている。


 建吾がこの世界に来てから、もう二年が経とうとしていた。


「ケンゴ様」


「何だ」


「幸せですか」


 リーゼロッテの声は、静かだった。


 建吾は、少し考えてから答えた。


「……わからない」


「わからない?」


「幸せとか、そういうことは、あまり考えたことがない」


 建吾は、窓の外を見つめた。


「だが、今の生活は、悪くない。やりがいのある仕事がある。信頼できる仲間がいる。そして——」


 建吾は、リーゼロッテを見た。


「お前がいる」


 リーゼロッテの頬が、わずかに赤くなった。


「それは……」


「それが幸せかどうかは、わからない。だが、悪くない」


 建吾は、窓辺から離れた。


「さて、次の授業の準備をしないと」


「はい」


 リーゼロッテは、建吾の後を追った。


 二人の影が、廊下に伸びていた。


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