第19章「魔王城の図面」

魔王の討伐から一ヶ月が経った。


 人類連合軍は、勝利の凱旋を行い、各国で祝賀の祭りが開かれた。


 建吾は、その中心にいた。


 「魔王を倒した内装工」として、彼の名は大陸中に知れ渡っていた。


 だが、建吾自身は、祝賀には興味がなかった。


 彼の関心は、すでに別のところに向いていた。


「復興だ」


 王都に戻った建吾は、国王に報告した。


「魔王軍との戦争で、各地が荒廃しています。城壁は崩れ、住居は焼け、道は寸断されている。これを修復しなければ、人々の生活は戻りません」


「わかっている」


 国王は、深く頷いた。


「そなたに、復興の総指揮を任せたい」


「承知しました」


 建吾は、頭を下げた。


「ただし、一つお願いがあります」


「何だ」


「復興には、大量の人手と技術が必要です。俺一人では、とても手が回りません。各地に、技術者を育成する仕組みを作りたいのです」


「技術者を育成する仕組み……」


「学校です」


 建吾は、図面を広げた。


「建築の学校を作りたい。そこで、俺の技術を教え、新しい技術者を育てる。彼らが各地に散らばり、復興を進める。そういう仕組みを作りたいのです」


 国王は、図面を見つめた。


 それは、建吾が構想した「建築学校」の設計図だった。


 教室、実習場、寮。すべてが、効率的に配置されている。


「面白い考えだ」


 国王は、満足そうに頷いた。


「許可する。必要な資金と土地は、王家が用意しよう」


「ありがとうございます」


      ◇  ◇  ◇


 建築学校の建設は、すぐに始まった。


 場所は、王都の郊外。広大な土地に、学校の建物が次々と建てられていく。


 建吾は、自ら設計し、自ら施工を指揮した。


 ミスリル製のLGS材を使った軽量構造。マジックボードによる遮音・断熱。パーティション工法による可変空間。


 これまでに開発したすべての技術を、この学校に投入した。


「ここが、新しい時代の始まりになる」


 建吾は、建設中の学校を見上げながら呟いた。


 傍らには、リーゼロッテがいた。


「素晴らしい建物ですね」


「まだ途中だ。完成には、あと半年かかる」


「でも、形は見えてきました」


 リーゼロッテは、微笑んだ。


「ケンゴ様の夢が、形になっていく」


「夢……」


 建吾は、その言葉を噛みしめた。


 夢。


 元の世界では、そんなものを考える余裕はなかった。


 毎日が、仕事に追われていた。現場を回し、職人を管理し、工期を守る。それだけで精一杯だった。


 だが、この世界に来て、変わった。


 自分の技術が、人々の役に立つ。自分の知識が、世界を変える。


 それは、夢と呼べるものかもしれない。


「一つ、聞いてもいいか」


「はい」


「お前は、俺と一緒に、この学校を運営してくれるか」


 リーゼロッテの目が、大きく見開かれた。


「私が……ですか?」


「ああ。俺は、技術のことしかわからない。経営や人事は、お前の方が向いている」


「でも、私は領主です。グライフェンベルクを、離れるわけには……」


「領地の経営と、学校の運営。両方やればいい」


 建吾は、真剣な目でリーゼロッテを見た。


「俺と一緒に、この国の建築を変えてくれ」


 リーゼロッテは、しばらく黙っていた。


 それから、ゆっくりと頷いた。


「……わかりました」


「いいのか」


「はい。ケンゴ様と一緒なら、何でもできる気がします」


 リーゼロッテは、建吾の手を取った。


「私の答えは、ずっと変わりません。いつまでも、あなたの傍にいます」


 建吾は、リーゼロッテの手を握り返した。


 言葉は、必要なかった。


 二人の間には、もう十分な絆があった。


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