第17章「王城防衛戦」

偵察から帰還した建吾は、すぐに国王に報告した。


「魔王城の弱点を、見つけました」


 玉座の間で、建吾は図面を広げた。


 偵察中に描いた、魔王城の概略図だ。


「城の中央にある大塔。ここに、魔法の核があります」


「魔法の核……」


 国王は、図面を見つめた。


「それを破壊すれば、城は崩壊する」


「はい。ただし、問題があります」


「問題とは」


「核は、塔の内部にあるはずです。外からは見えない場所——おそらく、壁の裏側か、地下です」


 建吾は、図面を指差した。


「内装工の用語で、『隠蔽部』と呼びます。配管や配線を通すための、見えない空間。魔法の核も、そういった場所に隠されている可能性が高い」


「隠蔽部……」


 国王は、その言葉を噛みしめるように呟いた。


「見つけることは、できるのか」


「できます。俺の目には、隠蔽部が見えます」


「どうやって」


「建物の構造を理解していれば、どこに隠蔽部があるかはわかります。壁の厚さ、柱の位置、床の傾斜。すべてが、ヒントになります」


 国王は、しばらく考え込んでいた。


 それから、顔を上げた。


「建吾。そなたに、新たな任務を与える」


「はい」


「魔王城に潜入し、魔法の核を破壊せよ。そのための部隊を編成し、指揮を執れ」


 建吾は、深く頷いた。


「承知しました」


      ◇  ◇  ◇


 潜入部隊は、二十人で編成された。


 建吾、ゴルド、シルヴァ。そして、偵察で行動を共にしたヴァルターと、彼の部下たち。


 リーゼロッテも、参加を志願した。


「私も、行きます」


「危険だ」


「承知しています。でも、私は領主です。民を守るために、戦う義務があります」


 建吾は、リーゼロッテの目を見た。


 そこには、揺るぎない決意があった。


「……わかった。だが、俺の指示には従ってもらう」


「はい」


 マルコは、王都に残った。


 防衛工事の指揮を続けるためだ。


「師匠」


 出発の前、マルコが建吾に近づいてきた。


「必ず、戻ってきてください」


「ああ」


「俺……師匠に教わったこと、全部覚えてます。だから、ここは任せてください」


「頼んだぞ」


 建吾は、マルコの肩を叩いた。


 弟子の成長が、嬉しかった。


      ◇  ◇  ◇


 潜入部隊は、夜陰に紛れて魔王城に接近した。


 前回の偵察で確認したルートを辿り、城壁の下に到達する。


 ここからが、本番だ。


「城内への侵入ルートは、三つある」


 建吾は、小声で説明した。


「正門、裏門、そして下水道。今回は、下水道を使う」


「下水道?」


 ヴァルターが、眉をひそめた。


「魔王城に、下水道があるのか」


「ある。どんな城にも、排水システムがある。魔法で作られた城でも、それは変わらない」


 建吾は、城壁の根元を指差した。


 そこには、小さな開口部があった。排水用の穴だ。


「あそこから入る。狭いが、人が通れる程度の幅はある」


 部隊は、一人ずつ排水口に潜り込んでいった。


 暗い。臭い。狭い。


 だが、誰も文句を言わなかった。


 任務の重要性を、全員が理解していた。


      ◇  ◇  ◇


 下水道を進むこと、一時間。


 建吾たちは、城の地下に到達した。


「ここからは、慎重に行く」


 建吾は、周囲を見回した。


 石造りの通路。天井は低く、横幅も狭い。


 だが、建吾の目には、別のものが見えていた。


 壁の構造。支持材の配置。空洞の位置。


「こっちだ」


 建吾は、仲間たちを導いた。


 通路を曲がり、階段を上り、さらに奥へ進む。


 途中、何度か魔物の気配を感じたが、うまく避けることができた。


 そして——


「ここだ」


 建吾は、ある壁の前で足を止めた。


「この壁の向こうに、魔法の核がある」


「どうしてわかる」


「壁の構造が、他と違う。厚さが異常に厚い。何かを隠すために、わざと厚くしている」


 ゴルドが、壁に触れた。


「確かに……普通の壁とは、質感が違うな」


「魔法が込められている」


 シルヴァが、目を細めた。


「強力な封印の魔法です。普通の方法では、破壊できません」


「普通の方法なら、な」


 建吾は、壁を見つめた。


「魔法を破る必要はない。壁を支えている下地を壊せばいい」


「下地……?」


「この壁は、魔法で強化されている。だが、壁自体を支えているのは、石と漆喰だ。その下地を崩せば、壁は倒れる」


 建吾は、道具袋から鑿(のみ)と槌(つち)を取り出した。


「俺が壁を崩す。お前たちは、見張りを頼む」


 ゴルドが頷いた。


「任せろ」


 建吾は、壁に向かった。


 まず、壁の構造を確認する。


 表面の石。その下の漆喰。さらに下の、支持材。


 弱点は——ここだ。


 建吾は、壁の一点に鑿を当てた。


 そして、槌で叩いた。


 コンコン。コンコン。


 静かに、だが確実に、壁を崩していく。


 これが、建吾の戦い方だ。


 剣や魔法ではなく、知識と技術で、敵を倒す。


 内装工としての、最後の施工が始まった。


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