第16章「クーデターの夜」

偵察部隊は、十人で編成された。


 建吾、ゴルド、シルヴァ。そして、人類連合軍から選抜された七人の精鋭。


 彼らは、夜陰に紛れて王都を出発した。


 目的地は、北の荒野にある魔王城。


 片道で、約二週間の行程だ。


 道中、建吾は偵察部隊のメンバーと親交を深めた。


 隊長のヴァルター。四十代の歴戦の騎士で、魔王軍との戦いを何度も経験していた。


「魔王城を見に行くのは、初めてじゃない」


 焚き火を囲みながら、ヴァルターは言った。


「五年前にも、偵察任務に参加した。あの時は、城の外観を観察するだけで精一杯だった」


「どんな城だった」


「異様だった。外から見ると、普通の城に見える。だが、よく見ると、おかしい。窓の位置がずれている。塔の高さが合わない。まるで、複数の城を無理やり繋ぎ合わせたような……」


「複数の城を繋ぎ合わせた……」


 建吾は、その言葉を頭の中で反芻した。


 元の世界でも、増築を繰り返した建物は、構造的に不安定になることがあった。


 もし、魔王城がそういった建物なら、弱点を見つけられるかもしれない。


「城の図面は、残っていないのか」


「ない。魔王城は、魔王自身が魔法で作り上げたと言われている。人間の建築家が設計したものじゃない」


「魔法で作った……」


「ああ。だから、通常の攻城戦では落とせない。城自体が、魔法で守られている」


 建吾は、考え込んだ。


 魔法で作られた城。魔法で守られた城。


 だが、どんな魔法にも、限界がある。


 建物を維持するには、エネルギーが必要だ。それが魔力であれ、物理的な力であれ。


 そのエネルギーの源を断てば、城は崩壊するはずだ。


「魔法の源を、見つければいい」


「魔法の源?」


「ああ。城を維持している魔法の核。それを破壊すれば、城は崩れる」


 ヴァルターは、懐疑的な顔をした。


「そんな簡単な話じゃないだろう。魔法の核を見つけるのも、破壊するのも、至難の業だ」


「簡単じゃないのは、わかっている。だが、可能性はある」


 建吾は、焚き火を見つめた。


 炎が、夜の闘に揺れている。


「俺の仕事は、建物の構造を見ることだ。魔法で作られた城でも、構造はある。構造があれば、弱点もある」


「……そうか」


 ヴァルターは、建吾を見つめた。


「あなたは、面白い人だ。内装工が、魔王城を攻略する。誰も考えたことがない発想だ」


「内装工だからこそ、できることがある」


 建吾は、静かに言った。


「壁を立てる者は、壁を崩す方法も知っている」


      ◇  ◇  ◇


 二週間後。


 偵察部隊は、魔王城を視認できる位置に到達した。


 荒野の只中に、それは聳えていた。


 黒い城。


 空に向かって伸びる、無数の塔。歪んだ城壁。不規則な窓。


 ヴァルターの言った通り、それは複数の城を無理やり繋ぎ合わせたように見えた。


「あれが、魔王城か……」


 ゴルドが、呆然と呟いた。


「なんて……不気味な城だ」


 シルヴァも、眉をひそめていた。


「あの城には、強力な魔法が込められています。近づくだけで、体が重くなる……」


 建吾は、城を観察していた。


 目を細め、構造を読み取ろうとする。


 外壁の材質。塔の配置。窓の位置関係。


 そして——


「見えた」


「何が見えた」


「パターンだ」


 建吾は、城を指差した。


「あの城、でたらめに見えるが、実際には規則性がある。塔の配置、窓の位置、すべてがある一点を中心に配置されている」


「一点……?」


「あそこだ」


 建吾は、城の中央部分を指差した。


 そこには、一際大きな塔がある。他の塔より高く、他の塔より太い。


「あの塔が、城の中心だ。おそらく、魔法の核もあそこにある」


 ヴァルターが、目を見開いた。


「そこまで、わかるのか」


「建物の構造を見れば、わかる。あの塔に、すべての荷重が集中している。あそこを崩せば、城全体が崩壊する」


「だが、どうやって……」


「まだわからない。だが、近づいて調べれば、方法は見つかるはずだ」


 建吾は、城を見つめ続けた。


 答えは、きっとあそこにある。


 内装工の目で、魔王城の弱点を見つけ出す。


 それが、建吾の使命だった。


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