第15章「反撃の準備」

建吾の志願は、国王に承認された。


 人類連合軍の偵察部隊に加わり、魔王城の調査を行う。それが、建吾に与えられた新たな任務だった。


 出発は、一週間後。


 それまでの間、建吾は王都の防衛工事を継続しながら、偵察任務の準備を進めた。


「無茶だ」


 ゴルドが、渋い顔で言った。


「お前は内装工だ。偵察任務なんて、専門外だろう」


「専門外かもしれない。だが、城の構造を見る目は、俺にしかない」


「それは……そうだが……」


 ゴルドは、言葉に詰まった。


 シルヴァが、冷静な声で言った。


「ケンゴの判断は正しいと思います。魔王城を攻略するには、その構造を知る必要がある。それができるのは、ケンゴだけです」


「だからといって……」


「私も行きます」


 シルヴァは、きっぱりと言った。


「エルフは、夜目が利きます。偵察任務には、役立つはずです」


「俺も行く」


 ゴルドが、観念したように言った。


「お前一人を、危険な場所に送り出すわけにはいかない」


「ゴルド……」


「言っておくが、お前を守るためじゃないぞ。俺は、自分の技術を見せたいだけだ」


 ゴルドは、照れたように顔を背けた。


 建吾は、わずかに笑った。


「ありがとう。頼りにしてる」


「当たり前だ」


 マルコが、不安そうな顔で言った。


「俺も……行きたいです」


「駄目だ」


 建吾は、首を振った。


「お前は、ここに残れ」


「でも……」


「王都の防衛工事を、お前に任せたい」


 マルコの目が、大きく見開かれた。


「俺に……任せる?」


「ああ。俺がいない間、工事の指揮を取ってくれ」


「そんな……俺には無理です」


「無理じゃない。お前なら、できる」


 建吾は、マルコの肩に手を置いた。


「俺は、お前を信じている」


 マルコは、しばらく黙っていた。


 それから、ゆっくりと頷いた。


「……わかりました。やります」


「よし。頼んだぞ」


      ◇  ◇  ◇


 出発の前夜。


 建吾は、城壁の上に立っていた。


 夜風が、頬を撫でる。


 眼下には、王都の街並みが広がっている。灯りが点々と揺れ、人々の営みが続いている。


 この景色を、守りたい。


 建吾は、改めてそう思った。


「ケンゴ様」


 後ろから、声がした。


 リーゼロッテだった。


「明日、出発ですね」


「ああ」


「無事に、戻ってきてください」


 リーゼロッテの声は、わずかに震えていた。


 建吾は、振り返った。


 月明かりに照らされた彼女の顔は、いつもより幼く見えた。


「心配しているのか」


「……はい」


「大丈夫だ。必ず戻る」


「約束……してくれますか」


 建吾は、少し考えてから答えた。


「約束はできない」


「え……」


「戦場に行く人間が、必ず戻ると約束するのは、嘘になる」


 リーゼロッテの顔が、悲しそうに歪んだ。


「でも——」


「だから、代わりに別のことを約束する」


 建吾は、リーゼロッテの目を見た。


「俺は、全力を尽くす。生きて帰るために、できることは全部やる。それだけは、約束できる」


 リーゼロッテは、しばらく建吾を見つめていた。


 それから、小さく笑った。


「……ケンゴ様らしいですね」


「そうか?」


「はい。誠実で、正直で、現実的。……私が、好きになった人らしい」


 建吾は、その言葉に少し驚いた。


 だが、否定はしなかった。


「……俺も」


「え?」


「俺も、お前のことを、大切に思っている」


 リーゼロッテの目に、涙が浮かんだ。


「ケンゴ様……」


「待っていてくれ。必ず、この戦争を終わらせる」


 リーゼロッテは、深く頷いた。


 そして、建吾に近づき、そっと手を握った。


「待っています。いつまでも」


 二人は、しばらくそのまま、夜空を見上げていた。


 二つの月が、静かに輝いていた。


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