第7話
「……進捗が遅すぎる。エイリル少佐、君はあの老いぼれに情でも移ったのか?」
尋問室に入る直前、エイリルは憲兵長官から冷徹な言葉を投げかけられていた。手元のファイルには『イエーガー博士の利用価値が認められない場合、一週間以内に最終処分(処刑)に移行する』という極秘の通達が挟まれている。
エイリルは、重い足取りで部屋に入った。イエーガーは彼女の顔を見ただけで、すべてを察したように薄く笑った。
「顔色が悪いな。帝国の上層部が、私の首を刎ねることでも決めたか?」
「……博士。お願いです、何か……何か一つでもいい、帝国の兵器局が泣いて喜ぶような、実用的で、破壊的な『情報』を渡してください。そうすれば、私はあなたの延命を嘆願できます」
エイリルは、録音を止め、彼に懇願した。それは軍人として、絶対に許されない背信行為だった。
「馬鹿を言え。お前が私の情報を書き換えて、不完全な理論を上に報告していることは知っている。私を守るために、お前自身のキャリアを捨てるつもりか?」
「私は科学者です! あなたのような天才を、こんなカビ臭い部屋で終わらせるわけにはいかない!」
「……エイリル」
イエーガーは、初めて彼女の肩に手を置いた。その掌は驚くほど軽く、枯れ木のようだった。
「いいか、私の研究のすべては、すでにお前の頭の中にある。私が死んでも、その火が消えることはない。……だが、そうだな。お前のメンツを保つための『おもちゃ』くらいは、最後にくれてやろう」
イエーガーは黒板に向かい、新しい計算式を書き始めた。
「先生それは・・・まさか・・・」
「そのまさかだ。魔導励起爆弾を『高圧縮魔導炉』に転換するための計算式。かなり複雑だがお前なら理解できるだろう?同時に爆弾の作り方も理解できるはずだ。これを兵器にするか、平和利用するかはお前に任せる」
会話もそこそこに、イエーガーは黒板に向かったまま、数式を書き続けていく。
エイリルは、その数式の全てを見逃すまいと目を見開き必死にノートへ書き写し続けた。
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