第5話
尋問開始から一ヶ月。エイリルは憔悴していた。帝国の次世代主戦力となるはずの『魔導エンジン』の試作機が、実験中に次々と暴走を起こしていたのだ。上層部からの圧力と、原因不明の理論破綻。彼女は気づけば、未提出の報告書ではなく、イエーガーの待つ尋問室に逃げ込んでいた。
「……博士。尋問ではありません。私個人の、科学者としての相談です」
彼女は、本来持ち出すことが禁じられている最新エンジンの設計図を、震える手で机に広げた。
イエーガーは一瞥し、鼻で笑った。
「ほう。戦犯に軍機を漏らすとは、お前も焼きが回ったな。だが、この設計……。なるほど、美しいが『傲慢』だ。帝国の若手エリートが描きそうな、無機質な線だな」
「どこが、間違っているのですか? 出力計算も魔素の流体循環も完璧なはずです」
「完璧すぎて『余裕』がないのだ。エイリル、お前は機械に呼吸をさせていない。この排熱バイパスを閉じろ。代わりに、あえて魔素を停滞させる『隙間』をここに作ってみろ」
イエーガーは、彼女の手からペンを奪い、設計図に大胆な弧を描き加えた。
「停滞!? そんなことをしたら回路が爆発して……。あ、いえ、待ってください。この隙間が、余剰魔素の衝撃を吸収する『クッション』になる……?」
「ようやく気づいたか。安定とは静止ではない、動的な均衡だ。お前の国の理論は『支配』を求めている。だが魔導は本来『対話』だ」
エイリルはハッとした。自分が『魔素を支配しよう』としていたことが、逆に暴走を招いていたのだ。彼女はイエーガーが書き加えた歪な円を見つめ、そこに生命の息吹を感じた。
「……助かりました。これは、公式の記録には残しません。私が独自に発見した改良案として報告します」
「好きにしろ。そのかわり、次に来る時はもっとまともな茶葉を持ってこい。ここの出涸らしには飽き飽きだ」
イエーガーはぶっきらぼうに背を向けたが、その背中からは、かつてのような鋭い刺々しさを感じない。二人の間に、国家への忠誠を越えた『仲間』としての連帯が、静かに芽生えた瞬間だった。
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