第2話

無能な係官を追い出した後、尋問室には、ただならぬ緊張感が漂っていた。

尋問室の床には、依然としてあの『焼け焦げた機械部品』が転がっている。エイリルはその一部をピンセットでつまみ、持ち込んだ拡大鏡で覗き込む。


「魔力歪曲の痕跡……。イエーガー博士、高密度圧縮を、実現させるために『空間共振』の技術を使ったのですね? でも、この基板の焼き付き方を見る限り、共振が制御しきれずに自壊している。これを『失敗作』と言ったのは、思うように制御できなかったからですか?」


イエーガーは退屈そうに指をもてあそんでいたが、エイリルの言葉にニヤリと笑った。


「おしいな。半分正解だ。自壊したのは制御のせいではない。それを動かす『人』の脈動が、予想よりも速すぎただけだ」


「人……? まさか、生体魔素を直接得るため人体と直結させたのですか? それは禁忌の技術……」


エイリルは息を吞む。人としての倫理観と、科学者としての戦慄が混ざり合う。


「ただでは教えんぞエイリル。帝国が極秘に進めている『人工魔素』の人体への定着率を教えろ。それがわかれば、この部品がなぜ燃えたのか、お前の頭でも理解できるだろうよ」


エイリルは躊躇した。それは帝国の最高機密。しかし、目の前の老人が持つ『禁断の知識』を知る誘惑には勝てなかった。


「……現在、約4パーセントです。それ以上は、被験者の精神が崩壊します」


「……くっ、くくく! 4パーセントか! 帝国も案外、臆病なんだな」


イエーガーは声を上げて笑った。


「いいか、小娘。この部品はな、『共振を制御する』ものではない。溢れ出す『人』のエネルギーを『逃がす』ための安全弁だ。設計ミスではない。心臓から直に取り込んだ生体魔素の強さを見誤った、私の慢心の証だ」


エイリルは焼け焦げた残骸を見つめ、戦慄した。この焦げ跡は、ひとつの命が燃え尽きた跡だったのだ。彼女は恐怖を感じながらも、その禁忌の技術を成り立たせる計算式を、無意識に脳内で組み立て始めていた。


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