第2話



 ジフの冷徹な声は、再会の喜びで高揚していたユナの心に、冷水を浴びせかけたようだった。


「どうして、ここにいる」という問いかけは、再会を祝う言葉ではなく、明らかに「招かれざる客」に対する拒絶だった。


「……ただ、近くに来たから。懐かしくて。ジフこそ、この店によく来るの?」


ユナは努めて明るく、震える声を隠して問い返した。


しかし、ジフは手元のウイスキーを一口煽ると、一度も彼女と目を合わせることなく視線をカウンターの奥へ戻した。


「……ああ」


短すぎる返信。


10年前、雪が降る新村の公園で「ずっと一緒にいよう」と笑い合ったあの少年は、もうここにはいなかった。


気まずい沈黙が流れる中、ジフのスマートフォンのバイブ音が静かな店内に響いた。


彼は画面を確認すると、一瞬だけ表情を緩めた。


そのわずかな変化を、ユナは見逃さなかった。


「……うん、今終わった。……いや、すぐ帰るよ。薬は飲んだ? ……分かった。10分で着く」


穏やかで、どこか義務感と慈愛が入り混じったような話し方。

ユナが知っている「優しいジフ」の声だった。


しかし、その優しさは今のユナに向けられたものではない。


ジフは立ち上がり、コートを羽織った。会計を済ませようとする彼を、ユナは反射的に呼び止めた。


「ジフ、待って。あの、連絡先……」


「ユナ」


ジフは彼女の言葉を遮り、初めてまっすぐに彼女の目を見た。


その瞳には、深い疲労と、それ以上に冷たい一線が引かれていた。


「もう会うことはないと思う。お互い、別の人生だ」


突き放すような言葉を残して、彼は店の重い扉を押し開けた。


鈴の音が虚しく響く。


ユナは取り残されたように、自分の冷めたウイスキーのグラスを見つめた。


「ユナさん、追いかけなくていいのかい?」


マスターが心配そうに声をかけてくる。


「彼はね……ずっと一人だったわけじゃないんだ。数年前から、いつも彼を支えている女性がいる」


心臓がドクン、と大きく脈打った。


「恋人、ですか……?」


「ああ。ジフが一番辛かった時期から、ずっとそばにいる子だよ。今日も彼女を待たせているんだろう」


マスターの言葉は、ジフの冷たい態度よりも深くユナの胸をえぐった。


10年という月日は、ただの数字ではなかった。自分がソウルでキャリアを積み、忙しなさに身を任せている間に、ジフの隣には自分の知らない「誰か」が居場所を築いていたのだ。


店を出ると、新村の夜風はさらに冷たさを増していた。


ユナはふと、通り過ぎるタクシーの窓越しに、足早に歩くジフの背中を見つけた。


彼はコンビニに立ち寄り、ミネラルウォーターと、何か小さな箱――家庭の常備薬のようなもの――を買い、足早に住宅街の暗がりに消えていった。


(10分で着くって、言ってた)


彼は、誰かのために急いでいる。


自分との再会の余韻に浸る暇もないほど、彼の人生はすでに誰かとの日常で満たされている。


ユナはスマートフォンの画面をつけた。


開発中のマッチングアプリのテスト画面には、「運命の相手が見つかりました」という皮肉なポップアップが出ていた。


「バカみたい……」


彼女は独り言をこぼし、涙が溢れる前に駅へと歩き出した。


しかし、彼が去り際に言った「もう会うことはない」という言葉の裏に、何か得体の知れない「重み」があったことが、どうしても頭から離れなかった。



              To be continued

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