第2話 少女との出会い
それからさらに二年の月日が流れた。
『テイム!』
目の前のウサギ型モンスターに手をかざす。
――だが、いつも通り、何の反応もない。
「おい、本当にいたぞ。Gランクテイマー」
「マジかよ。Fランクすらダメって本当だったんだな」
背後から聞こえた声に振り返ると、冒険者らしき男が二人、面白そうにこちらを見ていた。
……見慣れた光景だ。
中等部を卒業してすぐ、俺は家を飛び出した。
行き先はベルフ王国北部、『ルーラットの森』。
冒険者ライセンスがなくても入れる、世界最大級のフリーダンジョン。
出現するのはFランクモンスターのみ――本来、初心者向けの場所だ。
ここなら、俺でもテイムできるモンスターに出会える。
そう信じて、俺は毎日のように森へ通い続けてきた。
だが現実は、こうだ。
Fランクのテイムに失敗し続ける俺は、いつの間にか噂になった。
そして今では――
「Gランクテイマー」
そんな不名誉なあだ名で呼ばれ、冒険者たちの冷やかし対象になっている。
「あいつ見てるとさ、俺の失敗なんて大したことないって思えるわ」
背中に投げつけられた言葉を無視し、俺は森の奥へと歩き出した。
結局、その日も成果はゼロ。
夕暮れに染まる森を後にする。
「ただいま」
扉を開けて入ったのは、街の酒場だった。
「おかえり」
カウンター越しに声をかけてくる、筋骨隆々の中年男性。
「あっ、おかえりなさい」
階段から降りてきたのは、銀髪ロングの女性だ。
酒場のマスター、ゼンさん。
そして、その娘のラフェリアさん。
テイムもできず、行き場を失っていた俺を、住み込みで雇ってくれた人たちだ。
ここで働き、空いた時間は森へ行く。
そんな生活を、もう二年以上続けている。
夜の営業が終わり、自室に戻る。
明日は定休日だ。
休みの日は、森で一夜を過ごす。
夜にしか姿を現さないモンスターもいるからだ。
大きなリュックに必要な物を詰め込み、ベッドへ横になる。
翌朝、まだ薄暗いうちから森へ向かった。
奥へ、さらに奥へ。
気づけば、また夕方になっていた。
野営場所を探そうとした、その時――
ドン、と鈍い音が響いた。
音のした方へ駆けると、小さな崖がある。
下を覗き込むと、人影が地面に座り込んでいた。
近づいてみて、思わず息を呑む。
透き通るような水色の髪。
華やかなドレスのような服を着た、小柄な少女。
少女は俺に気づいた瞬間、びくりと肩を震わせ、
慌てて立ち上がり、その場を離れようとした。
「イッ……」
すぐに小さく声を上げ、再び地面に座り込む。
足元を見ると、血がぽたぽたと落ちていた。
「ケガしてるじゃないか。今、手当を――」
俺はリュックから回復ポーションを取り出し、駆け寄ろうとする。
「大丈夫だから、それ以上近づかないで!」
拒むように立ち上がろうとするが、足に力が入らないらしく、体がふらついた。
「悪い。このままだと悪化する」
半ば強引に、傷口へポーションをかける。
淡い光とともに、裂けていた皮膚がみるみる塞がっていった。
何度見ても慣れない光景だ。相変わらず、この世界のポーションは規格外すぎる。
「……すごい。本当に治っちゃった」
少女は自分の足と、俺の手に残った瓶を、交互に見つめている。
まるで初めて見るみたいな反応だ。
この世界でポーションを知らない?
――いや、それはさすがに不自然か。
考えていると、少女ははっとしたように立ち上がり、俺から距離を取った。
「ケガ、治してくれてありがとう! それじゃ、私はこれで!」
逃げるように駆け出そうとする。
「待って!」
呼び止めると、少女はビクッと固まった。
「そっちは、街の方向じゃない」
「あ、えっと……私の家は、そっちじゃないの!」
森の奥を指差す少女。
だが、あの先はしばらく人の住めそうな場所はなかったはずだが……。
「じゃあ、途中まで送るよ」
そう言うと、少女は慌てて首を振る。
「い、いいの! 一人で帰れるから!」
警戒されているのは明らかだった。
だが、辺りはすでに暗くなり始めている。
「ここは安全でも、夜の森は別だ」
少し迷ったあと、少女は小さくうなずいた。
「……分かった。ただし、途中までだからね!」
家の場所を知られたくない、ということだろう。
どうやら、相当怪しまれているらしい。
「了解」
少女の後を歩き始めて、一時間。
さらに一時間。
「あれ……こっちじゃなかったかな。いや、さっきはあっちだったような……」
その言葉で、ようやく察した。
(――この子、迷ってる)
「もう真っ暗だ。今日はここで朝を待とう。明日、改めて探した方がいい」
少女は悔しそうに唇を噛んだあと、こくりとうなずいた。
-----------------------------------------------------------------------------------
あとがき
少しでも面白い・続きが気になると思っていただけたら、
☆☆☆でのレビュー、いいねで応援よろしくお願いいたします。
新種縛りの異世界テイマー ~テイム不能から始まる、未知との出会い~ わらび @enogu3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。新種縛りの異世界テイマー ~テイム不能から始まる、未知との出会い~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます