新種縛りの異世界テイマー ~テイム不能から始まる、未知との出会い~

わらび

第1話 転生

 神谷収蔵かみたにしゅうぞう、二十三歳。

 会社帰り、トラックに轢かれて死んだ――はずだった。


 次に目を開けたとき、視界にあったのは、見知らぬ木の天井だった。


 背中には柔らかな布の感触。

 体を動かそうとするが、手足に力が入らない。声を出そうとしても、喉がひくりと  鳴るだけだった。


 必死にもがく俺を、二人の人間が覗き込んでいる。

 若く美しい女性と、同じく若く、がっしりとした体格の男。


 「どうしたの、リベル? そんなに足をバタバタさせて」


 ――リベル?


 その呼び名と状況が重なった瞬間、前世で読み漁ったライトノベルの記憶が脳裏をよぎる。


 (これ……まさか)


 混乱した頭が、ようやくひとつの答えに辿り着く。


 異世界転生。

 そんな都合のいい展開が、本当に起きたのだとしたら。


 問題はひとつ。

 ここが、どんな世界なのか、だ。


 剣と魔法が飛び交う王道ファンタジーか。

 それとも、のんびり生きられるスローライフ系か。

 できれば魔王討伐とか、命懸けの使命は遠慮したい。


 そんなことを考えていると、綿あめのような白い物体が、ふわりと視界を横切った。


 ぷよぷよと宙に浮かぶ、それは――生き物だった。


 「あら、フーちゃん。お腹空いたの?」


 女性がそう呼ぶのを聞いて、俺は目を瞬く。

 モンスターらしき存在を、家の中で、しかも当たり前のように飼っている。


 胸の奥が、期待と不安でざわついた。


 ――どうやら、この世界は普通じゃない。


 それから五年。

 ある程度自由に動けるようになった俺は、ようやく理解した。


 この世界は、剣と魔法の世界ではない。

 モンスターと契約し、共に生き、共に戦う――テイマーの世界だ。


 そして俺は、田舎の村で林業を営むアレン家の長男として、この世界に生まれていた。


 さらに衝撃だったのは――

 成長するにつれ、この世界の仕組みが、ある記憶と重なり始めたことだった。


 前世で人生を注ぎ込んだゲーム、『モンスターリアライズ』。

 この世界は、それとあまりにも似ていた。


 モンスターリアライズは、俺が中学生の頃に突如現れたRPGゲームだ。

 モンスターと契約して戦う点はよくあるが、プレイヤー自身もリアルタイムで戦闘に参加する点が最大の特徴だった。


 累計発行部数は五千万部。

 二年前に発売された『モンスターリアライズ3』で完結している。


 大好きだったゲームの世界に転生できたと思うと、正直毎日テンションがおかしくなりそうだった。

 もっとも、両親の前では純粋無垢な少年を演じる必要があるのだが。


 文字を読める年齢になってから、俺は本を頼りに世界について調べ始めた。

 すると、登場するモンスターや国の多くは、俺の知らないものばかりだった。


 ゲームでも作品ごとに土地や生物は異なっていた。

 だが三作品すべてに共通して存在し、ラスボスが待ち構える場所がある。


 ――『ベグラムの神殿』。


 何冊もの本を調べるうちに、その名を見つけたとき、背筋が冷えた。


 そしてそれは、この世界にも確かに存在していた。


 つまり今の状況を一言で表すなら、「モンスターリアライズ4の世界に転生した」――そんな感覚だった。


 五歳になったある日、ついに待ちわびていたイベントが訪れる。

 そう、初めてのモンスターテイムだ。


 虫取りに行くような感覚で父に連れられ、近くの『ホラの森』へ向かった。


 ホラの森に出現するモンスターは、誰でも捕まえられるFランクのみ。

 戦闘や特別な手順すら必要ない――少なくとも、この世界ではそう教えられている。


 しかし――。


 父に教わった方法でテイムを試したが、成功しない。

 何度やっても、魔力の反応そのものが返ってこなかった。


 (……あれ?)


 胸の奥に、小さな違和感が生まれる。

 失敗そのものよりも、「何も起きない」ことが、妙に不気味だった。


 慌てた父は、別のモンスターも試すよう言った。

 だが結果は、すべて同じ。


 空振り。

 沈黙。

 魔力は、まるで俺の存在を拒むかのように、何の反応も示さなかった。


 (ゲームでは物語開始は十六歳からだし……この年齢なら、失敗してもおかしくない、よな?)


 自分に言い聞かせるように考え、無理やり納得した。

 そうでもしなければ、胸の奥に芽生えた不安を、直視してしまいそうだったからだ。


 その時は、この出来事を、まだ深く考えてはいなかった。


 だが、その夜。

 父と母は、俺が眠ったあとも遅くまで話し込んでいた。


 翌日、病院。

 協会。

 父の知り合いの冒険者。


 あらゆる場所を回ったが、答えはひとつも得られなかった。



 「前例がない」

 「様子を見るしかない」


 その言葉を聞くたび、父と母の表情は、少しずつ曇っていった。


 その日から、両親は時折、俺を見るときだけ深刻な顔をするようになった。

 気づかないふりをしていたが、胸が締め付けられる感覚は、誤魔化せなかった。


 時間が経つにつれ、俺も理解し始めていた。


 これは一時的な不調じゃない。

 「できない」という現実が、確実に、俺の人生に根を張り始めている。


 それから一年が過ぎ、俺は村を離れ、街の学校に通うことになった。

 だが、この時になっても、テイムできない状況は何一つ変わらなかった。


 授業で周囲が次々とモンスターを契約していく中、

 俺だけが、何度試しても、何も起こらない。


 失敗するたび、胸の奥がひりついた。

 悔しさで歯を食いしばり、情けなさに視線を落とした。


 この世界の学校では、テイマー関連の授業が多い。

 入学した時点で、俺はすでに落ちこぼれが確定していた。


 やがて中等部へ進学し、卒業まで月日が流れたが、結局、一度もテイムは成功しな かった。


 周囲は高等部進学や冒険者など、それぞれの道へ進んでいく。

 希望や夢を語る声が、やけに遠く感じられた。


 だが、テイムのできない俺には、そのどちらも選べなかった。

 

 心が折れそうになる夜は、何度もあった。

 それでも――完全に諦めることだけは、どうしてもできなかった。


 (まだだ)

 (俺は、何かを見落としているだけだ)


 そう思わなければ、前に進めなかった。


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 あとがき

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