5・決意の告白
M大「翌朝。婿投げは薬師堂で行われる。そこまで行く道は、前日にかんじきを履いて、地区の住民たちで踏み固めていた。が、朝方に集中的に大雪が降ったため、早起きし、またみんなで踏み固め直していた」
SE 雪を踏み固める
大「ふわぁ~、眠いな」
広保「完徹だろ? 少し寝とけばよかったんだ」
大「寝坊したら、組合長にどやされるからな」
広保「そう考えると、おちおち寝てられんな」
大「『
M大「『賽の神』とは、新潟や福島の一部地域で行われる行事である。内容は無病息災、五穀豊穣などを願うもの。木や竹で円錐状になるよう立てかけ、そこに藁の束を置いていく。古いお札や飾り、しめ縄などを隙間から入れ、火をつけて燃やすのだ。また、その火でもちや、スルメなどを焼いて食べると、病気にならないとも言われている」
組合長「おう、おめぇら、いいとこに来てくれたな。藁を積んでくれ」
大・広保「わかりました」
SE 藁を積んでいく
M大「この地区もほかの例に漏れず、組合長のような中年やじいさんは多くても、若手の男が少ない。みんな、東京や神奈川などの都会へ出ていってしまう。やりたい仕事が限られているから、仕方ないといえば仕方ない」
組合長「薬師堂のほうはどうだった?」
大「昨日の作業が、おじゃんになるぐらいでした」
広保「投げたら、ボフッと埋まりますよ」
組合長「いいんじゃいいんじゃ。今年は、男の俺ですら、ドキッとするようなイケメンだからな。そいつが雪塗れになって、あとから炭塗れになるのが、今から楽しみでな。ガッハッハ!」
M大「やはり、組合長のように、薄々違和感を感じている人が、ほかにもいそうだ」
組合長「おめぇらも思う存分、ブン投げるんだぞ!」
大・広保「はい!」
M大「返事はしたものの、飛鳥さんの正体を知っている俺にとっては、複雑だった。組合長が立ち去ってから、俺はため息をついた」
広保「どうした?」
大「ちょっと、来てくれ」
SE 雪の上を歩く足音
M大「俺と広保は、作業する住民たちから離れた」
大「お前の言う通りだった」
広保「何が?」
大「飛鳥さんの正体」
広保「まさか、お前……なんらかの形で裸でも見たのか!?」
大「違う違う。そんなわけないだろうが。夜中に銭湯に行ったらいてな。壁越しに話したんだ」
広保「なんだよ、俺も呼んでくれよー!」
大「何言ってんだ。寒いんだかわからんけど、ほかの奴とくっ付いって寝てただろうが!」
広保「くっそぅ……」
大「大体、俺は話しただけだ。それ以上もそれ以下もない! なんなら、小春も女湯にいたんだ。根掘り葉掘り聞けばいいさ」
広保「わかったって。ムキになんなよ」
大「そら、なるだろうが」
広保「で、どうすんだよ」
大「どうするもこうするも……言うしかねぇだろ、今後のために」
広保「今後?」
大「そう、今後だ」
M大「一旦家に帰ってから、
SE 宴会
飛鳥「すみません、すみません! みなさんにひとつご報告があります!」
M大「宴も中間に差しかかったころ、飛鳥が立ち上がった。『もしかしてできちゃった婚か!?』と、酔いに任せた下世話な声が飛ぶ中、飛鳥は身を震わせて言った」
飛鳥「実は僕、男ではなくて女なんです! ……その、トランスジェンダーなんです!」
M大「俺や広保、そして小春以外の目が点となり、飛鳥を見上げる」
組合長「おいおい、アンタみてぇなイケメンが、酔った勢いとは言え、変な冗談はよくねぇな」
飛鳥「冗談は言ってません」
組合長「じゃあ、証拠を見せてほしいもんだな」
飛鳥「わかりました。脱ぎます」
組合長「……いやいやいや、脱ぐことねぇだろうよ!」
小春「触ってもらうのはどう? 代表してウメばぁ。お願い」
M大「指名されたウメばぁが、こわごわと飛鳥の胸に手をやる。驚愕に目を見開き、口パクで『お・ん・な』と言って、座り込んでしまった」
組合長「なんてこった……」
飛鳥「好きになるのに、性別や年齢や国籍は関係ありますか!? 僕は、小春を男に負けないぐらい愛してます!」
大「祭りを続けていくには、伝統を変えていくことも必要だと思うんです!」
広保「よその人間が、ここの地区の娘を嫁にもらったって事実は、変わらないでしょ!?」
小春「どうか、わたしたちの入籍を認めてください! そして、婿投げを行ってください! よろしくお願いします!」
M大「場が静まり返る。住民たちはみんな、どうしたものかと顔色を窺っている」
SE 机を強く2回叩く
組合長「お前たちの気持ちはよくわかった! 入籍を認めるも何も、そこはオラたちが干渉するところじゃない。ちょびっとは、ニュースで勉強しとる。あんまり馴染みがないだけで、好きなもん同士で一緒になるのが、1番だからな。婿投げに関しては、昔に比べれば組数も減っていたし、こっちも存続できるか心配してたんだ」
小春「それじゃ……」
組合長「小春は、婿投げ自体を無視してもよかったのに、それをしなかった。離れていても、故郷を大事に思う気持ち、十二分にわかったぞ。それと、仲間に恵まれたな。素晴らしい友情だ」
飛鳥「よかったね、小春……」
M大「涙ぐむ小春を飛鳥が大きな体で包み込む」
組合長「飛鳥! この際性別なんてどうだっていい。こっちの地区一番のかわいい若手を取られたからには、覚悟はできてんだろうな?」
飛鳥「もちろんです! そのためにこちらに来たんですから」
組合長「ガッハッハ、そんじょそこらの野郎より、頼もしいわ! のう、大に広保」
大・広保「は、はい」
組合長「よーし、改めて乾杯だ!」
M大「結局、婿投げが始まる時間ギリギリまで、みんなで飲みまくった。地炉から飛鳥さんを上に騎馬で出るのだが、騎馬役の俺たちの足元がおぼつかずに、フラフラになりながら、どうにかこうにか薬師堂へ続く坂道を上ったのだった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます