4・5と110

飛鳥「姉は杜氏とうじをしてまして、滅多に県外に出ません。ほぼ1年、酒蔵で仕事をしてます。だから僕が、代わりに見聞を広げてるんです」

大「姉想いのいい人じゃないか。飛鳥さんなら、モデルとして、全国から引く手あまただろうなぁ。酒好きを公表してれば、各地の地酒も飲めるし、分析できる。素晴らしい連携だ」

飛鳥「得た知識は、姉と共有していきたいんです。昔ながらの日本酒もいいですが、新しいものを造りたい。今は第二の『獺祭だっさい』を造りたい、と、姉が常々言ってます」


M大「『獺祭』とは山口県で製造されている日本酒。人によっては、メロンのような味がするという。フルーツ寄りの甘味と香りが強い。まさに、唯一無二の製品なのだ。その昔、日本の首相が、アメリカの大統領に送った品としても有名である」


大「とてつもない野望だ」

飛鳥「秋羽にも『獺祭』に似た日本酒はあります。だけど、まずはそれを超えてやる、と息巻いてます。うちは、小さいほうの酒造なんですけど」

大「いや、目標や野望はデカいほうがいい。俺はそういう人、大好きだな」

小春「あっ!」

飛鳥「……大さん」

大「ん?」

飛鳥「僕がここに来た理由、まだあるんですよ」

大「なんだろう」

飛鳥「姉の婿探しも兼ねて来たんです」

大「ほー、飛鳥さんもいろいろ大変だね」

飛鳥「うちの地区、なぜか昔から男が生まれづらい所でして。外で婿探しをするのが慣例なんです」

大「なるほど」

飛鳥「うちの姉も三十路手前で未婚で、このままでは、酒造が絶えてしまいます」

大「そら大変だ。早くお見合いでも段取りしなきゃ。俺もできることがあれば、協力するから!」

飛鳥「ありがとうございます。それでは、大さん。うちに婿に来ませんか」

大「はい? 俺が婿!?」

飛鳥「お酒に対しても、仕事に対しても、真摯に取り組んでる話を小春から聞いてます」

小春「実際会ったことあるけど、カワイイ人だったよ。背もわたしより少し高いぐらいだし、かなり気さくな人。ただ、眼つきの鋭さはハンパないね。下手したら、殺されるかも」

飛鳥「最後の最後に、マイナスな印象を植えつけないでくれよ」

小春「事実じゃん」


M大「まさか俺に、結婚の話が来るとは思っていなかった。俺は今年で23になり、お姉さんが多分、29か三十路……。姐さん女房もいいかも。一緒に酒造りをして、尻を叩いてくれる人が身近にいれば、働きがいがあるだろう」


大「いいね! 是非、紹介してください!」

小春「おっ、好印象だー!」

飛鳥「そうですか! では、あとで姉に連絡しておきます」

小春「(小声で)ねえ、飛鳥。アレのことは言わなくていいの?」

飛鳥「……大さんは、高い所は大丈夫ですか?」

大「可もなく不可もなく」

飛鳥「うちの地区の決まりでですね、婿になる人物は、適性試験みたいなものがあるのです」

大「酒の種類当てとか? なんでもバッチ来い!」

飛鳥「バンジージャンプです」

大「……へ?」

飛鳥「吊り橋から飛ぶアレです」

大「はい」

飛鳥「高さが110メートルあります。日本2位です」

大「……いや、その……」


M大「予想外過ぎる適性試験だった。バンジーまで予想できる人間なんて、いやしないだろう。飛鳥さんの声がマジだから、ガチでマジみたいだ」


小春「どうしたの大! まさか、怖気づいたんじゃないでしょうね! 男だったら、やってやれ! じゃないのー?」

大「馬鹿! 誰だって怖気づくわ。ちょっと今、心の整理をしてたんだ!」


M大「片や約5メートルで、片や110メートル……。どう考えても割に合わな過ぎる。どこかの国の成人の儀式じゃないんだから。だけど、新しい酒造りに、挑戦し続ける姿勢には惚れるなぁ。うちの会社は、昔のものをそのまま造り続けているだけだから」


大「飛鳥さん。風呂から上がったら、お姉さんの電話番号を教えて」

飛鳥「了解です。僕から姉に話しておきますね!」

小春「うまくいって良かったね飛鳥! あとは明日、屈強な男たちに投げられるだけだよ!」

飛鳥「あっ……」

小春「自分の使命が大事で忘れてたね。平気だよ、平気平気! クッション性抜群の雪だから。大ちゃん、そうでしょ!?」

大「小春の言う通り。バンジーの10分の1以下の恐怖だから。何も恐れることはない。騎馬戦の要領で担ぎあげられて、ポーンだからさ」

飛鳥「どうか、お手柔らかにお願いします」

大「性別はどうする? 本当は女だって明かす?」

飛鳥「本当は、黙ってようと思いましたが、わかる人にわかるみたいですから、明かすタイミングがあれば、僕から言います」

大「了解。広保も味方につけて、援護射撃するわ」

飛鳥「ありがとうございます。なにとぞ、よろしくお願いします」

小春「わたしからもよろしくお願いします」

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