第2話 溢れ出す色彩と、新しい「私」
次に気づいたとき、私は眩い光の中にいた。
閉じているはずのまぶたの向こう側から、暴力的なまでの白光が押し寄せてくる。前世の終わりに見た、あの澱んだ夜の闇とは正反対の、純粋で鋭い、命そのものの輝き。それは網膜を焼き切らんばかりの勢いで、私の意識を強制的に引きずり出した。
そして、耳をつんざくような音。それは単なる騒音ではない。空調が空気を切り裂く微細な振動、清潔なリネンが擦れる乾いた音、モニターが刻む規則正しい電子音、そして人々の吐息。それらすべてが、オーケストラの全楽器がいっせいに鳴り響いたかのような解像度で、脳に叩き込まれる。
「……ぎゃあ、おぎゃあ!」
肺が焼けるように熱い。初めて吸い込む空気の一粒一粒が、肺胞の隅々にまで行き渡り、休眠していた細胞を一つずつ叩き起こしていく。内側から制御しきれないほどの巨大なエネルギーが溢れ出し、産声となって大気を震わせた。
(……なんだ、この高く透き通った声は。俺の声なのか?)
混乱する思考を置き去りに、身体が勝手に脈動する。視覚はまだぼやけているが、巨大な影が私を抱き上げた。清潔な消毒液の匂い、そして強烈な生命の熱量。
「おめでとうございます、白石先生。元気な、本当に綺麗な……女の子ですよ」
(……女の子?)
耳を疑った。三十八年間、脂ぎったスーツを着て頭を下げて生きてきた私にとって、その言葉は死よりも衝撃的だった。思うように動かない小さな手足をバタつかせる。視界の下の方に映った自分の肌は、驚くほど白く、柔らかい。そして、長年連れ添ってきた「男としての証」が消失していることを本能的に悟った。
(嘘だろ……女? 俺が、女に……!? 何かの冗談だろ……!?)
脳が拒絶反応を起こす暇もなく、私は誰かの温かな胸に抱かれた。
「ああ……やっと会えたわね、私の赤ちゃん」
耳元で聞こえた、慈愛に満ちた女性の声。
「いい名前よ、パパと二人でずっと考えていたの。あなたは今日から、玲奈(れな)。……白石玲奈よ。よろしくね、玲奈」
(玲奈。白石……玲奈……)
母親に優しくその名で呼ばれた瞬間、前世の「俺」という汚れた輪郭が、新しい名前の清廉な響きの中に溶けていく感覚があった。
三十八歳の泥臭い記憶という重い荷物を背負ったまま、私は「白石玲奈」という名の小さな女の子として、二度目の人生の産声を上げたのだ。
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