第49話 見えない刃




夜風が

静かに

通り抜ける。




屋根の上から

アレンは、

下の路地を

見下ろして

いた。




暗がりに

潜む影。




数は

増えていた。




四。

五。

六。




完全な

包囲網。




「……逃げ場は

 ない」




アレンは、

小さく

息を吐き、

集中する。




魔力を

静かに

全身に

巡らせる。




強化。




回復。




自己防御の

限界まで

重ねる。




※自己防御

→ 物理・魔法攻撃を

 軽減する複合補助魔法




「……来る」




影が、

ゆっくり

距離を

詰めてくる。




襲撃者は、

直接攻撃は

せず、

微妙な距離で

牽制して

いる。




「戦わず

 倒す

 つもりか」




レオルが

後方から

囁く。




「間違いない」




アレンは、

唇を噛む。




戦わずして

相手を

制する。




見えない

刃の

恐怖。




距離感、

速度、

呼吸、

魔力の

微弱な揺れ。




すべて、

命を狙う

意志を

放って

いる。




「……ヒーラーは

 逃げるだけだ」




だが、

それは

通用しない。




包囲は

完成に

近い。




退けば、

確実に

追い込まれる。




アレンは、

ゆっくり

膝を曲げる。




体勢を

低くし、

魔力感知を

極限まで

高める。




一瞬の

気配。




襲撃者の

足音が

止まる。




「……読まれたか」




影が、

僅かに

揺れる。




風向きの

せいか、

魔力の

気配が

揺れる。




アレンは、

それを

見逃さない。




「……強化」




瞬時に、

筋力と

反応速度を

底上げする。




影が

動いた瞬間、

アレンは、

体を

ひねる。




刃は、

空気を

切るだけで

かすめる。




「……くっ」




襲撃者が、

低い声で

舌打ちする。




影の一人、

若い男。




熟練だが、

計算通り

ではない。




一瞬の

ミスが、

致命傷に

なる。




「……守る」




アレンは、

心の中で

誓う。




包囲の中で、

守るべき

人を。




「――今だ」




レオルが、

別の影を

狙う。




同時に、

ギルド内部の

警備隊が、

路地を

塞ぐ。




一瞬の

乱れ。




襲撃者は、

混乱する。




アレンは、

体勢を

低くしたまま

前に

進む。




微弱な

魔力で

回復を

維持。




攻撃は

せず、

逃げ場を

作る。




「……人を

 守ることが

 本当に

 戦いなのか」




レオルが

口を

開く。




「戦わず

 守ることも

 戦いだ」




その

言葉を

胸に、

アレンは、

一歩ずつ

進む。




影の刃が

再び、

空を切る。




だが、

襲撃者の

微妙な呼吸が

ずれていた。




「……生かす

 のか」




アレンは、

頷く。




守るための

力は、

傷つける

ためでは

ない。




屋根伝いに、

安全圏へ

誘導する。




影は、

追うが、

焦りが

混じる。




「……人を

 狙わず

 倒せない

 苛立ち」




その

隙。




アレンは、

体勢を

一瞬

低くし、

影を

押し戻す。




刃は、

路地の

壁に

刺さる。




金属音が

響き渡る。




「……くそ」




襲撃者は、

後退。




包囲は、

破れたわけ

ではない。




だが、

証言者と

アレンは、

生き延びた。




「……守れた」




レオルが、

小さく

笑う。




「まだ

 戦いは

 続く」




アレンは、

強化を

解除し、

深呼吸する。




包囲の

気配は

消えない。




だが、

見えない刃の

恐怖に

負けず、

守ることを

選んだ。




「……俺は、

 守る側だ」




中位ランクの

冒険者として、

自分の立場を

理解した

瞬間でも

あった。




夜空を

見上げる。




無数の

星が、

微かに

瞬いていた。




その下で、

小さな光は

確実に

動き続けて

いる。




アレンは、

拳を

握った。




守るための

力は、

戦うため

だけでは

ない。




それを、

痛感した

夜だった。

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