第30話 試験前夜




夜の

ガルド王国は、

昼とは

別の

顔を

見せる。




石畳を

照らす

灯りが、

長い

影を

落としていた。




宿の

一室。




簡素な

机を

囲み、

四人は

静かに

座っている。




誰も

口を

開かない。




それでも、

沈黙は

重くは

なかった。




「……明日だな」




最初に

声を

出したのは

カイだった。




「中位試験」




その

言葉だけで、

胸が

わずかに

締まる。




アレンは、

机の

上に

置かれた

地図を

見つめていた。




試験区域。




地形。




想定される

魔物。




すべて、

事前に

知らされる

最低限の

情報。




「……不確定要素が

 多いですね」




独り言の

ように

呟く。




「だから、

 試験なんだろ」




ダグが

短く

答えた。




「完璧な

 準備なんて

 できない」




「……だからこそ、

 確認したい」




アレンは

顔を

上げる。




「私たちの

 優先順位を」




三人が

こちらを

見る。




「一位は

 生存」




「二位は

 撤退判断」




「三位が

 依頼達成」




一つ

一つ、

言葉を

区切る。




「順位は

 逆に

 しません」




沈黙。




それから、

リナが

小さく

頷いた。




「同意」




「評価より

 生存」




カイも

続く。




「無理は

 しない」




「逃げる時は、

 即

 逃げる」




ダグは、

腕を

組んだまま、

しばらく

黙っていた。




「……一つだけ

 確認だ」




「なんでしょう」




「誰かが

 判断を

 誤った時、

 どうする」




重い

問い。




アレンは、

少し

考え、

答えた。




「……全員で

 修正します」




「責めません」




「失敗は

 共有します」




ダグは、

ゆっくり

頷いた。




「それで

 いい」




話は、

それ以上

続かなかった。




必要な

確認は、

すべて

終わっていた。




夜が

更け、

それぞれの

準備に

入る。




アレンは、

自分の

装備を

並べた。




杖。




回復用の

触媒。




簡易

ポーション。




強化に

使う

魔力回路の

補助具。




※魔力回路

→ 魔法を

 行使する

 ための

 体内経路。

 酷使すると

 疲労が

 蓄積する。




「……足りてる」




そう

呟きながらも、

胸の

奥が

静かに

ざわつく。




十三歳。




中位試験。




年齢を

理由に

失敗した

例も、

成功した

例も、

知っている。




だが、

他人の

話だ。




自分は、

自分だ。




ベッドに

横になっても、

すぐには

眠れない。




天井を

見つめ、

これまでを

思い返す。




ルンバ村。




初めての

回復魔法。




ギルド登録。




Gランク。




即席パーティ。




固定。




判断を

委ねる

勇気。




すべてが

繋がって、

今が

ある。




「……最強の

 ヒーラー」




小さく

呟く。




それは、

力だけの

話では

ない。




生き残らせる。




支える。




判断する。




時には、

退く。




それが

できる

存在。




「……明日、

 証明する」




自分に

言い聞かせる

ように

目を

閉じた。




隣の

部屋から、

誰かが

歩く

音が

聞こえる。




仲間だ。




それだけで、

不安が

少し

遠のく。




試験前夜は、

静かに

過ぎていった。




嵐の

前の

静けさの

ように。




十三歳の

ヒーラーは、

眠りの

中で、

次の

戦場へ

足を

踏み出す

準備を

整えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る