第23話 強化の代償
朝の空気は、
冷たく
澄んでいた。
宿の窓から
差し込む
光が、
床に
細い線を
描いている。
アレンは、
その線を
ぼんやりと
見つめていた。
「……重い」
身体が、
ではない。
感覚が、
だ。
昨日の
依頼の後から、
妙な
違和感が
残っている。
魔力は
残っている。
怪我も
ない。
それなのに、
動き出す
前から、
疲労が
滲んでいた。
「……強化、
使いすぎたかな」
自分に
問いかける。
ここ数日、
前に
出る機会が
増えた。
その分、
自己強化を
使う
回数も
増えている。
※自己強化
→ 身体能力を
一時的に
最適化する
特殊支援。
便利だ。
だが、
万能では
ない。
ギルドへ
向かう道で、
足取りが
少し
重いことに
気づく。
「……いつもより、
遅い」
意識して
歩調を
上げる。
だが、
自然な
速さに
戻らない。
ギルドに
入ると、
マールが
声を
かけてきた。
「……少し、
顔色が
悪いですね」
「そうですか?」
自覚は
ある。
だが、
大したことは
ないと
思いたかった。
その日の
依頼は、
小規模な
遺構調査。
魔物は
少数。
危険度は
低め。
「……問題ない」
そう
判断し、
受けた。
同行者は
二人。
どちらも
慣れた
冒険者だ。
遺構の中は、
薄暗く、
空気が
重い。
「……足元、
注意」
声を
かける。
だが、
その直後。
視界が、
わずかに
揺れた。
「……?」
一瞬の
遅れ。
魔物の
動きに、
反応が
遅れる。
前衛が
傷を
負った。
「ヒール!」
回復は、
間に
合った。
だが、
心臓が
強く
脈打つ。
「……今の、
遅かった」
自覚する。
次の
戦闘でも、
同じ。
判断が、
半拍
遅れる。
強化を
使えば、
戻る。
だが――
「……使いすぎだ」
自分で
わかる。
それでも、
使った。
戦闘後、
足が
もつれ、
壁に
手を
つく。
「……アレン?」
同行者が
声を
かける。
「……少し、
休ませて
ください」
座り込むと、
急に
視界が
暗くなった。
魔力は
残っている。
なのに、
身体が
動かない。
「……これが、
代償?」
強化は、
身体に
負荷を
かける。
筋肉だけ
ではない。
神経。
判断力。
それらを
無理やり
引き上げて
いる。
※過負荷
→ 能力を
限界以上に
使った際に
生じる
反動。
依頼は、
同行者の
判断で
切り上げた。
帰路、
アレンは
ほとんど
喋らなかった。
ギルドに
戻ると、
シャールが
異変に
気づいた。
「……座れ」
短い
指示。
「自己強化を
使いすぎたな」
「はい」
否定は
できない。
「強化は、
刃だ」
シャールは、
静かに
言う。
「振れば
強い」
「だが、
握り続ければ
手が
壊れる」
沈黙。
「……どうすれば
いいですか」
アレンは、
真っ直ぐ
聞いた。
「制限を
設けろ」
「使う
場面を
選べ」
「常時
使うものでは
ない」
それは、
理解していた
つもりだった。
だが、
実践できて
いなかった。
夜、
宿の部屋。
ベッドに
横になっても、
すぐには
眠れない。
「……守るために
強くなる」
その
考えが、
いつの間にか
「常に
強くある」
に
すり替わっていた。
最強とは、
常に
全力で
いることでは
ない。
必要な
瞬間に、
最大を
出すこと。
「……使いどころ」
それが、
次の
課題。
十三歳の
ヒーラーは、
自分の
限界を
初めて
はっきりと
知った。
強さには、
代償が
ある。
その
事実を
受け入れる
ところから、
次の
成長が
始まる。
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