第21話 前に出るヒーラー




朝のギルドは、

少し

張り詰めていた。




掲示板の前に

立つ冒険者の

数が、

明らかに

増えている。




「……中位依頼、

 増えてきたな」




アレンは、

一歩

引いた位置から

掲示板を

見上げていた。




Fランク上位。




Eランク対象。




文字の

並びが、

重い。




「……これが、

 次の段階」




そう

理解していても、

胸の

奥は

静かに

ざわつく。




その時、

一枚の依頼が

目に留まった。




※指定同行

※前衛二名

※回復役一名




「……前衛、

 多い」




戦線が

前に

寄る構成。




ヒーラーは、

必然的に

近くに

立つことになる。




「……逃げ場が

 少ない」




それでも、

目を

逸らさなかった。




受付に

向かう。




マールが、

少しだけ

驚いた顔を

した。




「……この依頼、

 受けるんですね」




「はい」




短く

答える。




「前に

 出ることに

 なります」




確認。




「わかっています」




マールは、

数秒

黙り、

それから

頷いた。




「……気をつけて

 ください」




集合場所は、

城門近く。




そこに

いたのは、

槍使いと

大剣士。




どちらも

年上。




「……ヒーラー?」




率直な

視線。




「はい」




「……子どもだな」




否定は

しない。




「ですが、

 回復と

 判断は

 できます」




一瞬、

空気が

止まる。




大剣士が

笑った。




「はっきり

 言うな」




「いい」




「前に

 立てるか?」




問いは、

核心だった。




「……必要なら」




逃げずに

答える。




「後ろに

 隠れる

 つもりは

 ありません」




槍使いが、

目を

細めた。




「……なら、

 信じる」




現場は、

岩場の

多い渓谷。




視界が

悪く、

退路が

限られる。




「……来るぞ」




魔物は、

中型二体。




動きは

重いが、

一撃が

致命的。




前衛が

前に

出る。




アレンは、

いつもより

一歩

近い位置に

立った。




「……近い」




心臓が

早く

打つ。




だが、

視界は

広い。




前衛の

動き。




魔物の

癖。




「……今だ」




傷を

負う前に、

強化を

入れる。




※瞬間強化

→ 動作を

 一時的に

 最適化する

 支援。




「っ……!」




大剣士の

踏み込みが

深くなり、

致命傷を

避ける。




次の瞬間、

槍使いが

弾かれた。




「ヒール!」




即座に

回復。




だが、

距離が

近い。




魔物の

爪が

迫る。




「……!」




反射的に、

前へ

出た。




ヒーラーが、

前に

出る。




それは、

本来

あり得ない

動き。




だが、

その一瞬で

位置が

ずれ、

致命打は

避けられた。




「……下がれ!」




叫びながら、

自分に

回復。




痛みは、

ある。




だが、

折れていない。




戦闘は、

数分で

終わった。




魔物は

倒れ、

渓谷に

静けさが

戻る。




「……今の、

 助かった」




大剣士が

言う。




槍使いも、

深く

息を

吐いた。




「ヒーラーが

 前に

 出るとは

 思わなかった」




「……必要だった

 ので」




それだけ

答える。




自覚は

ある。




怖かった。




だが、

逃げなかった。




ギルドへ

戻る道すがら、

二人の

態度は

明らかに

変わっていた。




「……次も、

 頼めるか」




誘い。




アレンは、

少し

考え、

首を

振った。




「……必要な時に

 呼んで

 ください」




固定は

しない。




だが、

関係は

切らない。




それが、

今の

最善。




ギルドで

報告を

終えると、

シャールが

短く

言った。




「前に

 出たな」




「はい」




「怖かったか」




「……はい」




正直に

答える。




シャールは、

それ以上

何も

言わなかった。




だが、

その沈黙が、

評価だと

わかった。




夜、

宿の部屋。




アレンは、

自分の

手を

見つめる。




震えは

もう

ない。




「……前に

 出た」




それは、

一歩。




ヒーラーとして、

越えては

ならない

線では

ない。




越える

覚悟が

必要な

線だった。




中位ランクへの

道は、

確かに

始まっていた。

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