第16話 救助依頼の現場




旧街道へ続く道は、

雨上がりの

土の匂いに

満ちていた。




踏みしめるたび、

靴底が

わずかに

沈む。




「……足元、

 悪いな」




アレンは、

自分に

そう言い聞かせ、

歩調を

落とした。




急ぐ必要は

ない。




だが、

遅すぎても

意味がない。




救助依頼。




それは、

時間との

戦いだ。




旧街道沿いの

森は、

かつて

人の往来が

あった名残を

残している。




朽ちた

道標。




崩れかけた

石垣。




「……あった」




目的の

廃小屋は、

木々に

半ば

飲み込まれる

ように

立っていた。




扉は、

壊れている。




中から、

微かな

声。




「……生きてる」




それだけで、

胸が

少し

軽くなる。




アレンは、

小屋の中へ

足を

踏み入れた。




湿った

床。




倒れた

棚。




そして――




床に

横たわる

冒険者。




「……っ」




若い男だ。




呼吸は

浅い。




脚に、

深い

傷。




「……落ち着いて」




声を

かけながら、

距離を

測る。




敵影は、

ない。




だが、

油断は

できない。




「ヒール」




まずは、

小さく

回復。




傷口が

塞がり始め、

呼吸が

少し

安定する。




※応急回復

→ 命を

 繋ぐための

 最低限の

 回復。




「……助かる」




男が、

掠れた

声で

呟いた。




「話せますか?」




「……少し」




意識は

ある。




最悪では

ない。




「仲間は?」




「……いない。

 単独だった」




無謀。




だが、

責める

意味は

ない。




「動けますか?」




「……無理だ」




脚の

傷は、

深すぎる。




運ぶしか

ない。




「……大丈夫です」




アレンは、

自分に

回復魔法を

使った。




「ヒール」




身体が

軽くなる。




力が

脚に

集まる。




※身体補助

→ 強化を

 利用し、

 負荷を

 分散させる

 技術。




男の

身体を、

慎重に

担ぎ上げる。




「……軽く

 ない」




当然だ。




だが、

持てる。




小屋を

出た瞬間、

背後で

音が

した。




「……来た」




魔物。




小型が

二体。




アレンは、

走る

選択を

した。




戦う必要は

ない。




救助が

最優先だ。




足は、

もつれない。




呼吸も、

保てている。




魔物は、

しばらく

追ってきたが、

やがて

距離が

開いた。




「……はぁ……」




街道まで

戻り、

ようやく

立ち止まる。




男の

呼吸は、

安定している。




「……生きてます」




ギルドへ

戻ると、

医療班が

すぐに

対応した。




「……間に合った」




その言葉に、

力が

抜ける。




シャールが、

静かに

頷いた。




「判断は、

 正しかった」




「戦わず、

 運び、

 生かした」




「それが、

 ヒーラーだ」




アレンは、

深く

頭を

下げた。




この依頼で、

何かを

得た。




それは、

経験だけ

ではない。




救えた

命。




そして――




自分が

進むべき

道への

確信。




回復とは、

魔法ではない。




選択だ。




生かすための

判断。




十三歳の

ヒーラーは、

その意味を

はっきりと

理解し始めていた。

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