第14話 期待と現実の狭間で




森の奥へ

進むにつれ、

空気は

さらに

重くなっていった。




湿った土の匂いに、

鉄のような

魔力の気配が

混じる。




「……嫌な感じだな」




斥候が、

小さく

呟いた。




ベインは、

足を止め、

手を上げる。




「警戒を

 上げろ」




一行は、

自然と

隊列を

整えた。




アレンは、

最後尾で、

全員の

背中を

視界に

入れる。




「……落ち着け」




自分に

言い聞かせる。




期待されている。




それは、

わかっている。




だが、

それに

応えようと

無理をすれば、

必ず

歪む。




「ヒール」




アレンは、

静かに

回復魔法を

使った。




戦闘前の

軽い

回復。




※事前回復

→ 小さな回復を

 重ねることで、

 消耗を

 抑える技術。




「……助かる」




剣士が、

小さく

礼を言った。




その言葉に、

胸が

少しだけ

温かくなる。




だが、

次の瞬間。




「――来る!」




斥候の

声。




茂みから、

魔物が

現れた。




中型。




数は、

三体。




動きが、

速い。




「散開!」




ベインの

指示が

飛ぶ。




剣士が

前へ。




斥候が

側面へ。




アレンは、

一歩

下がり、

全体を

見る。




魔物の

一撃が、

剣士を

掠めた。




「ヒール!」




即座に

回復。




剣士の

動きが

戻る。




だが、

二体目が

斥候へ

向かう。




「……っ」




距離が

遠い。




アレンは、

走りながら

詠唱した。




「ヒール!」




間に合う。




斥候が

体勢を

立て直す。




「助かった!」




戦闘は、

激しさを

増す。




ベインが、

魔物を

切り伏せる。




だが――




「……魔力の

 流れが

 乱れてる」




アレンは、

違和感を

覚えた。




この森。




何かが、

おかしい。




最後の一体が

倒れると、

一行は

大きく

息を吐いた。




「……想定より

 手強いな」




ベインが、

眉を

ひそめる。




「アレン、

 魔力は

 大丈夫か?」




「……はい。

 まだ

 余裕は

 あります」




嘘では

ない。




だが、

楽観も

していない。




進むほど、

消耗は

確実に

増える。




再び

歩き出した

直後だった。




地面が、

わずかに

震える。




「……止まれ」




ベインの

声が、

低く

響く。




前方から、

現れたのは――




大型の

魔物。




「……聞いて

 ないぞ」




剣士が

息を

呑む。




想定外。




それが、

全員の

脳裏を

よぎった。




「……撤退も

 視野に

 入れる」




ベインは、

即座に

判断する。




アレンは、

その言葉に

安堵した。




無理を

しない。




それが、

この

パーティの

強さだ。




魔物が、

動いた。




重い一撃。




剣士が

弾き飛ばされる。




「ヒール!」




回復。




だが、

衝撃が

大きい。




「……っ、

 まだだ」




アレンは、

自分に

回復を

重ねる。




強化。




身体が、

軽くなる。




「……撤退!」




ベインの

叫び。




全員が、

即座に

動く。




アレンは、

最後尾で

回復を

続ける。




誰も、

倒れない。




それだけを

意識した。




森を

抜けた瞬間、

全員が

膝に

手をついた。




「……生きてるな」




斥候が、

苦笑する。




ベインは、

アレンを

見た。




「……無理を

 しなかった」




「それが、

 一番

 評価できる」




アレンは、

小さく

頷いた。




期待に

応えようとして、

無茶を

しなかった。




それは、

勇気だった。




ギルドへ

戻ると、

シャールが

報告を

聞いた。




「撤退判断、

 正しい」




「そして……

 全員

 無事だ」




その言葉に、

胸が

いっぱいに

なる。




期待と

現実。




その狭間で、

最も

大切なのは、

生き残る

選択。




アレンは、

それを

初めて

実感した。




「……ヒーラーは、

 奇跡を

 起こす

 役じゃない」




「奇跡を

 起こせる

 状況を

 残す

 役だ」




シャールの

言葉が、

深く

胸に

刻まれた。




十三歳の

ヒーラーは、

一つ

大人になった。




期待と

現実の

狭間で、

正しく

立ち続ける

術を、

学びながら。

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