第13話 初めての指名依頼




その朝、

ギルドの空気は

いつも以上に

張りつめていた。




掲示板の前では、

中級以上の

冒険者たちが

集まり、

低い声で

話し合っている。




「……南の森で、

 問題が起きたらしい」




「魔物の動きが、

 おかしい」




アレンは、

その輪の外から

静かに

様子を

眺めていた。




自分には、

まだ関係のない

話だ。




そう思おうと

していた。




「……アレンさん」




呼ばれた声に、

はっと

顔を上げる。




マールだった。




いつもより、

少し

表情が

硬い。




「ギルド長が、

 お呼びです」




胸が、

小さく

跳ねた。




「……はい」




案内された

執務室には、

シャールと、

見知らぬ

冒険者が

一人いた。




年齢は、

三十代半ば。




鋭い目。




歴戦の

空気。




「来たか」




シャールが、

短く

告げる。




「こちらは、

 ベイン」




「中級上位の

 冒険者だ」




ベインと

呼ばれた男は、

アレンを

じっと

見つめた。




値踏みする

視線。




だが、

嫌な感じは

しない。




「……君が、

 例のヒーラーか」




「はい。

 アレンです」




ベインは、

腕を組み、

一拍置いて

口を開いた。




「指名依頼だ」




その言葉に、

胸が

強く

鳴った。




「南の森での

 調査兼

 護衛」




「難度は、

 中級下位」




「だが……

 回復役が

 重要になる」




シャールが、

補足する。




「お前を

 名指しで

 希望している」




静寂。




アレンは、

すぐに

答えなかった。




指名。




逃げ場の

ない言葉。




「……理由を、

 聞いても

 いいですか?」




ベインは、

即答した。




「倒れない

 ヒーラーが

 必要だからだ」




「守られるだけの

 回復役は、

 今回は

 足手まといになる」




胸が、

じわりと

熱くなる。




「……考える

 時間を、

 ください」




シャールは、

小さく

頷いた。




「当然だ」




「断る権利は、

 ある」




執務室を出ると、

廊下の空気が

やけに

軽く感じた。




「……指名」




言葉を

反芻する。




逃げたい

気持ちと、




進みたい

気持ち。




その両方が、

胸の中で

せめぎ合う。




受付に戻ると、

マールが

心配そうに

こちらを見ていた。




「……どうでしたか?」




「指名、

 でした」




マールは、

小さく

息を呑む。




「……初めて

 ですね」




「はい」




「……怖いですか?」




アレンは、

正直に

答えた。




「怖いです」




「でも……

 断る理由も

 見つかりません」




マールは、

少し

考えてから

言った。




「怖いまま

 受けるのは、

 悪くないと

 思います」




「慢心より、

 ずっと」




その言葉が、

胸に

静かに

落ちた。




その夜、

宿の部屋で

アレンは

装備を

整える。




回復薬。




包帯。




最低限の

護身具。




「……できることを、

 やるだけだ」




自分に

回復魔法を

使う。




「ヒール」




心が、

落ち着く。




翌朝、

集合場所には

ベインと、

もう二人の

冒険者が

いた。




剣士と、

斥候。




全員が、

アレンを見る。




「……よろしく」




短い挨拶。




だが、

そこに

侮りは

ない。




森へ向かう道中、

ベインが

話しかけてきた。




「無理は

 させない」




「だが、

 期待は

 している」




「……はい」




嘘は

言えなかった。




森に入ると、

空気が

重くなる。




魔物の

気配が、

濃い。




「……来るぞ」




最初の

戦闘は、

小規模だった。




だが、

油断できない。




アレンは、

前線を

見失わず、

必要な

タイミングで

回復を

入れる。




「ヒール」




剣士の

動きが

鈍らない。




斥候が、

頷く。




「……いい」




短い評価。




戦闘が

終わる頃、

ベインが

呟いた。




「……なるほど」




「指名して

 正解だ」




アレンの

胸に、

小さな

達成感が

灯る。




だが――




これは、

始まりに

すぎない。




指名依頼。




それは、

責任と、

信頼の

入口。




十三歳の

ヒーラーは、

その重みを

噛みしめながら、

一歩

前へ

進んでいた。

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