第12話 選ばれる側へ




ギルドの扉を

押し開けた瞬間、

空気が

わずかに

揺れた。




いつもと

同じ朝。




同じはずの

光景。




だが、

アレンは

はっきりと

感じ取っていた。




「……空気が、

 違う」




視線が、

集まる。




昨日までの

好奇心や

警戒とは、

少し違う。




測るような、

視線。




値を

量るような、

目。




「……まるで、

 商品みたいだ」




胸の奥が、

ひやりと

冷える。




掲示板の前に

立つと、

背後から

声がかかった。




「……アレン、

 だったな」




振り返ると、

中級冒険者の

男が

立っていた。




年は

二十代後半。




装備は、

よく手入れされ、

動きに

無駄がない。




「はい」




「少し、

 話せるか?」




周囲の

冒険者たちが、

一斉に

こちらを見る。




アレンは、

一瞬

迷い、

それから

頷いた。




「……はい」




男は、

静かな場所へ

移動し、

切り出した。




「回復役を

 探している」




「条件は、

 少し厳しいが……」




そこまで

言って、

アレンを

見つめる。




「君なら、

 耐えられると

 思った」




胸が、

どくんと

鳴る。




「……どうして、

 ぼくを?」




男は、

即答した。




「倒れないからだ」




「回復量より、

 それが

 重要だ」




選ばれる。




その言葉の

意味が、

ようやく

形を持つ。




「……すみません」




アレンは、

頭を下げた。




「今日は、

 受けられません」




男は、

少し

驚いた顔を

した。




「理由は?」




「……まだ、

 自分の限界を

 把握できて

 いないからです」




正直な

答えだった。




男は、

しばらく

黙り、

それから

小さく

笑った。




「なるほど」




「それなら、

 仕方ない」




「だが……

 覚えておけ」




「選ばれる側は、

 断る権利も

 持つ」




その言葉を

残し、

男は

去っていった。




残された

アレンは、

しばらく

動けなかった。




「……断った」




自分で

選んだ。




その事実が、

胸に

重く、

同時に

温かく

広がる。




受付へ向かうと、

マールが

すぐに

気づいた。




「……今の、

 見ていました」




「声、

 かけられましたね」




「はい」




「断りました」




マールは、

少し

目を丸くし、

それから

微笑んだ。




「……正しい判断だと

 思います」




「焦らなくて

 いいんです」




「アレンさんは、

 もう

 選ぶ立場に

 なり始めています」




その言葉に、

胸が

締めつけられる。




「……まだ、

 怖いです」




「期待されるのが」




マールは、

優しく

頷いた。




「それは、

 責任感が

 ある証拠です」




「無責任な人は、

 怖がりません」




ギルドを出ると、

空は

高く

澄んでいた。




風が、

心地よい。




宿へ戻る途中、

路地裏で

数人の

若い冒険者が

話しているのが

聞こえた。




「……あの

 ヒーラーだろ?」




「誘ったらしいぞ」




「断られたって」




「ランクGのくせに……」




言葉の

続きは、

聞かなかった。




聞く必要が

なかった。




宿の部屋で、

アレンは

椅子に座り、

目を閉じる。




選ばれる側。




それは、

誇りではない。




責任だ。




誰と

組むか。




どこまで

行くか。




どこで

引くか。




全てを、

自分で

決める。




「……ぼくは、

 ヒーラーだ」




守る役目。




立ち続ける

役目。




だからこそ、

簡単には

選ばれない。




簡単には、

選ばない。




窓の外では、

夕暮れが

街を

包み込んでいく。




その光を

見つめながら、

アレンは

静かに

決意した。




「……必要と

 された時に、

 応えられる

 ヒーラーに

 なる」




選ばれる側へ。




それは、

最強への

遠回りで、

確かな

一歩だった。

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