第11話 一人で立つ意味
朝の空気は、
少しだけ
張りつめていた。
王都の通りを歩く
人々の足取りも、
どこか
忙しない。
アレンは、
ギルドへ向かう途中、
自分の胸に
手を当てた。
「……落ち着いてる」
昨日までの
不安は、
完全には
消えていない。
だが、
恐怖だけが
先に立つことも
なくなっていた。
強化。
回復。
自分を
支える力。
それを
理解し始めたことで、
心も
少しだけ
安定している。
ギルドに入ると、
いつもより
空気が
静かだった。
依頼掲示板の前には、
人はいる。
だが、
騒がしくはない。
「……あ」
誰かが、
アレンに
気づいた。
声は、
広がらない。
視線だけが、
集まる。
期待。
警戒。
興味。
それらが
混じった
重たい視線。
「……まだ、
慣れないな」
そう思いながら、
依頼書を
見上げる。
今日は、
討伐ではない。
探索依頼。
単独行動可。
「……これだ」
選んだのは、
森の浅層調査。
魔物は弱いが、
数が出る。
パーティを組めば
安全だが、
あえて
一人を選ぶ。
「……一人で
立てるか」
自分への、
問い。
受付へ行くと、
マールが
すぐに
気づいた。
「おはようございます、
アレンさん」
「今日は……
単独ですか?」
「はい」
マールは、
一瞬
言葉を
探すように
唇を噛み、
それから
静かに頷いた。
「……無事に
戻ってください」
その言葉に、
嘘はない。
「はい」
ギルドを出ると、
空は
晴れていた。
雲は高く、
風は
穏やか。
森へ入ると、
空気が
変わる。
湿った土の匂い。
遠くの
獣の気配。
「……集中」
アレンは、
自分に
回復魔法を
使った。
「ヒール」
身体が、
軽くなる。
感覚が、
周囲に
広がる。
※感覚強化
→ 回復により
五感が
僅かに
研ぎ澄まされる
副次効果。
魔物が、
現れる。
小型。
数は、
四体。
逃げることも
できる。
だが、
調査依頼だ。
「……やる」
距離を保ち、
避け、
必要な時だけ
回復。
攻撃は、
最低限。
石を投げ、
注意を
逸らす。
魔物が
ばらける。
「……今」
一体ずつ、
対応する。
回復。
回避。
呼吸を
乱さない。
時間は
かかったが、
全て
退けた。
「……はぁ……」
息を整え、
周囲を
確認する。
怪我は、
ない。
魔力も、
残っている。
「……一人で、
できた」
その事実が、
胸に
静かに
落ちてきた。
誰かに
頼らなくても、
立てる。
それは、
孤独ではない。
選択だ。
帰り道、
森の出口で、
中級冒険者の
一団と
すれ違った。
「……あ」
気づかれた。
「一人か?」
「はい」
短い会話。
驚きは、
ある。
だが、
否定はない。
「……気をつけろ」
それだけ
言って、
去っていく。
以前なら、
見下された
言葉だったかもしれない。
今は、
違う。
対等に
近づいた
感覚。
ギルドへ戻ると、
シャールが
待っていた。
「どうだった」
「問題なく
完了しました」
「一人で?」
「はい」
シャールは、
しばらく
アレンを
見つめ、
やがて
頷いた。
「……一人で
立つ意味が、
わかったか」
「はい」
「だが、
忘れるな」
「一人で
立てることと、
一人で
戦い続けることは
違う」
アレンは、
その言葉を
胸に刻む。
「……はい」
宿へ戻り、
部屋で
装備を
整える。
窓の外では、
夕日が
沈みかけていた。
一人で立てる。
それは、
自分を
守れるということ。
だが――
誰かと
並んで立つための
力でもある。
「……ヒーラーだから」
後ろに
いるだけでは、
いられない。
自分の足で
立ち、
自分の意思で
選び、
必要な時に
手を差し伸べる。
それが、
ヒーラーとしての
在り方。
十三歳の少年は、
その意味を
少しずつ
理解し始めていた。
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