第10話 強化という可能性




夜明け前、

宿の部屋は

まだ暗かった。




窓の外では、

王都の空気が

ゆっくりと

目を覚まし始めている。




アレンは、

ベッドの上で

静かに

手を見つめていた。




「……回復だけ、

 じゃない」




最近、

はっきりと

わかるようになってきた。




回復魔法を使った時、

身体の奥が

わずかに

熱を帯びる。




筋肉が、

軽く。




感覚が、

鋭く。




「……試そう」




小さく呟き、

起き上がる。




誰もいない時間帯。




それが、

一番安全だった。




部屋の中央に立ち、

深呼吸する。




「ヒール」




淡い光が、

自分の身体を

包み込む。




同時に、

意識を

集中させる。




「……速く」




ほんの僅か、

願うように

意識を向ける。




足に、

力が

集まる。




一歩、

踏み出した。




――速い。




自分でも

驚くほど、

滑らかだった。




「……できた?」




※ステータス強化

→ 回復魔法に

 意図的な指向を

 加えることで、

 身体能力を

 一時的に

 高める応用。




誰にも

教えられていない。




本に

書いてもいない。




自分で、

気づいた。




「……すごい」




だが、

同時に

怖さも

込み上げる。




知られていない力。




理解されていない力。




それは、

武器にも、

災いにも

なる。




朝、

ギルドへ向かうと、

マールが

いつも通り

迎えてくれた。




「おはようございます、

 アレンさん」




「今日は、

 どうしますか?」




アレンは、

少し考え、

答えた。




「……訓練用の

 依頼は

 ありますか?」




マールは、

驚いたように

瞬きし、

すぐに

頷いた。




「あります」




「ギルド裏の

 訓練場での

 模擬対応依頼です」




「安全管理付き、

 報酬は

 少なめですが……」




「それで

 いいです」




訓練場には、

シャールが

いた。




「……聞いたぞ」




「自分から

 訓練を

 選んだそうだな」




「はい」




「理由は?」




アレンは、

正直に

答えた。




「力を、

 理解したいです」




シャールは、

少しだけ

目を細めた。




「……賢い」




「知らない力は、

 恐怖になる」




「理解すれば、

 選択できる」




模擬戦の相手は、

訓練用の

魔導人形。




攻撃力は、

低い。




だが、

動きは

素早い。




「開始」




人形が、

迫る。




アレンは、

自分に

回復魔法を使い、

同時に

意識を

足へ集中させた。




「ヒール」




避ける。




一撃。




紙一重。




心臓が、

強く

鳴る。




「……落ち着け」




次は、

腕。




耐える力。




人形の攻撃を、

受け流す。




「……効いてる」




衝撃が、

弱い。




回復と、

強化が

同時に働いている。




数分後、

模擬戦は

終了した。




「……終了」




息は、

上がっている。




だが、

倒れていない。




シャールが、

ゆっくり

拍手した。




「十分だ」




「いや……

 十分すぎる」




「だが、

 忘れるな」




「その力は、

 制御してこそ

 意味がある」




「使いすぎれば、

 自分を

 壊す」




アレンは、

深く

頷いた。




「……はい」




この力は、

万能ではない。




回数も、

時間も、

限界がある。




それでも――




ヒーラーは、

後ろに

いるだけの

存在では

なくなる。




自分を

守り、




仲間を

守り、




戦場に

立ち続ける

存在。




「……可能性、

 なんだ」




宿へ戻る道、

空は

すっかり

明るくなっていた。




人々が

行き交う。




その中を、

アレンは

静かに

歩く。




まだ、

ランクG。




まだ、

十三歳。




だが――




ヒーラーの

新しい可能性が、

確かに

芽吹き始めていた。

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