第8話 ランクGの異物




ギルドの掲示板の前で、

アレンは

小さく息を吐いた。




貼り出された依頼は、

どれも見慣れたものだ。




害獣の追い払い。

簡易討伐。

採取依頼。




どれも、

ランクG向け。




だが――




「……視線が、

 違う」




背中に、

じわりと

感じるものがあった。




以前は、

好奇心か、

見下し。




今は、

評価と、

警戒。




「ランクGのくせに」




そんな言葉が、

小さく

耳に入る。




アレンは、

気にしないように

掲示板へ

視線を戻した。




気にしても、

何も変わらない。




変わるのは、

行動だけだ。




「……これにしよう」




選んだのは、

境界付近の

見回り依頼。




討伐ではない。




異常があれば、

報告するだけ。




それでも、

油断はできない。




受付へ向かうと、

マールが

すぐに気づいた。




「おはようございます、

 アレンさん」




「今日は、

 見回りですか?」




「はい。

 無理は

 しません」




マールは、

少しだけ

困ったように

笑った。




「最近、

 その言葉を

 よく聞きます」




「……守る約束

 ですから」




そう答えると、

マールは

小さく

頷いた。




「それが、

 一番大切です」




ギルドを出ると、

王都の空は

少し曇っていた。




風が、

冷たい。




境界へ向かう道は、

人通りが少ない。




それでも、

完全な荒野ではない。




「……静かだ」




静かすぎる。




アレンは、

足を止め、

自分に

回復魔法を使った。




「ヒール」




淡い光が、

身体を包む。




感覚が、

研ぎ澄まされる。




※自己強化

→ 回復に付随して

 身体能力が

 一時的に向上する現象。




草の揺れ。




遠くの足音。




「……来る」




姿を現したのは、

二人組の冒険者。




年は、

二十代前半。




装備は、

やや使い込まれている。




「おい、

 お前」




片方が、

アレンに

声をかけてきた。




「ランクGだろ?」




「こんなとこで、

 一人で

 何してる?」




警戒。




だが、

敵意ではない。




「依頼です。

 見回り」




正直に答える。




二人は、

顔を見合わせ、

小さく笑った。




「噂のヒーラーか」




「……本当だったんだな」




噂。




ここまで

届いているとは、

思わなかった。




「無茶は、

 するなよ」




また、

同じ言葉。




アレンは、

小さく

頭を下げた。




「はい」




二人は、

それ以上

何も言わず、

去っていく。




境界付近で、

異常は

見つからなかった。




だが、

帰り道。




嫌な気配が、

背中を

撫でた。




「……っ」




振り返る。




そこにいたのは、

中型の魔物。




数は、

一体。




だが、

体格が

大きい。




「……想定外」




逃げるか。




一瞬、

考える。




だが、

距離は

すでに近い。




「ヒール」




自分へ。




身体が、

軽くなる。




魔物が、

突進。




かわす。




地面が、

抉れる。




「……強い」




倒す必要は、

ない。




生き延びる。




それだけ。




距離を取り、

走る。




足は、

もつれない。




息も、

切れにくい。




「……これなら」




魔物は、

しばらく

追ってきたが、

やがて

諦めた。




森の奥へ

消える。




「……はぁ……」




立ち止まり、

大きく

息を吐く。




倒れていない。




それが、

何よりの

成果だ。




ギルドへ戻ると、

いつもより

視線が集まった。




「境界の

 見回り?」




「……一人で?」




疑問と、

警戒。




だが、

報告を聞いた

担当者は、

静かに

頷いた。




「問題なし、

 ですね」




その様子を、

周囲が

見ている。




ランクG。




だが、

扱いは

Gではない。




その夜、

シャールが

呟いた。




「……異物だな」




「だが、

 必要な異物だ」




アレンは、

まだ知らない。




自分が、

ランクという枠を

壊し始めている

存在だということを。




ランクGの異物は、

静かに、

確実に、

冒険者社会の

常識を

揺らしていた。

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