第7話 ヒーラーの価値
ギルドの朝は、
いつもより
ざわついていた。
依頼掲示板の前には、
人だかりができ、
冒険者たちの声が
交錯している。
「前線が、
崩れたらしい」
「回復役が、
途中で倒れたとか」
アレンは、
その言葉に
足を止めた。
「……倒れた?」
耳を澄ます。
「中級依頼だ。
想定外だったらしい」
「ヒーラーが
先に魔力切れだと、
どうしようもないな」
胸が、
少しだけ
重くなる。
倒れるヒーラー。
それは、
珍しいことではない。
むしろ、
よくある話だ。
ヒーラーは、
守られる存在。
だが、
守りきれなければ、
最初に倒れる。
「……」
受付へ向かうと、
マールが
少し困ったような顔で
立っていた。
「おはようございます、
アレンさん」
「おはようございます」
「今日は……
少し、
相談がありまして」
「相談?」
マールは、
声を落とし、
周囲を
ちらりと見る。
「回復役を
探している
パーティが
あるんです」
「ただ……」
言葉を
選ぶように、
一拍置く。
「条件が、
少し特殊で」
「……ぼくで、
よければ」
自然と、
そう口にしていた。
マールは、
驚いたように
目を見開き、
それから
静かに首を振った。
「無理に、
とは言いません」
「でも……
あなたの噂を
聞いて、
指名があったんです」
胸が、
どくんと
鳴る。
「……噂で、
判断して
大丈夫なんですか?」
「それを
確かめたい、
そうです」
試される。
その言葉が、
頭をよぎる。
「……わかりました」
アレンは、
小さく
頷いた。
会議室に通されると、
そこには
三人の冒険者が
待っていた。
剣士。
斥候。
魔法使い。
いずれも、
経験を積んだ
中級冒険者だ。
「……君が、
噂のヒーラー?」
剣士の男が、
率直に尋ねる。
「はい。
アレンです」
「年齢は?」
「十三です」
一瞬、
空気が
止まった。
「……若いな」
正直な反応。
「だが、
倒れないって
聞いた」
「本当か?」
アレンは、
正面から
答えた。
「倒れないように、
動きます」
「約束は、
できません」
「でも……
簡単には
倒れません」
剣士は、
アレンを
じっと見つめ、
やがて
小さく笑った。
「いい」
「それで、
十分だ」
依頼内容は、
小規模な魔物討伐。
数は多くないが、
地形が悪い。
「無理そうなら、
すぐ引く」
「俺たちは、
全滅より
撤退を選ぶ」
アレンは、
その言葉に
安心した。
「……はい」
現地に向かう途中、
パーティの動きを
よく観察する。
連携。
役割分担。
村では、
経験できなかった
戦い方だ。
魔物が現れる。
剣士が前へ。
斥候が回り込む。
魔法使いが詠唱。
「……ヒール」
アレンは、
前線の剣士へ
回復魔法を放つ。
淡い光。
剣士の動きが、
一瞬、
鋭くなった。
「……ん?」
本人も、
違和感に
気づいたようだ。
「気のせいか?」
アレンは、
何も言わない。
続けて、
自分にも
回復魔法を使う。
魔力の消耗は、
小さい。
斥候が、
攻撃を受ける。
「ヒール!」
間に合う。
倒れない。
誰も、
倒れない。
戦闘が終わると、
剣士が
大きく息を吐いた。
「……助かった」
「魔力切れの
心配が
ほとんどなかった」
魔法使いも、
腕を組んで
頷く。
「回復が、
安定してる」
「いや……
それ以上だな」
視線が、
アレンに
集まる。
「君、
前線に
立てるだろ」
その言葉に、
胸が
震えた。
「……いえ」
「まだ、
怖いです」
正直な言葉だった。
剣士は、
少し驚いたように
目を瞬かせ、
それから
笑った。
「それでいい」
「怖さを
忘れた奴から、
死ぬ」
ギルドへ戻ると、
報告は
すぐに広まった。
「ヒーラーが、
最後まで
立ってた」
「魔力切れも
なかったらしい」
噂は、
形を変えながら
広がっていく。
その日の夜、
シャールに
呼ばれた。
「……どうだった?」
「怖かったです」
即答だった。
シャールは、
少しだけ
目を細める。
「それでいい」
「ヒーラーの価値は、
回復量じゃない」
「立ち続け、
判断し、
仲間を
生かすことだ」
アレンは、
深く
頷いた。
自分は、
まだ未熟だ。
だが――
「ヒーラーの価値」を、
初めて
実感した一日だった。
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