第4話 ソロ冒険者という選択




ギルド長室を出たあと、

アレンの足取りは

どこか宙に浮いていた。




頭の中で、

シャールの言葉が

何度も繰り返される。




自己循環型支援魔法。




聞いたことのない名前。


だが、

自分の身体で起きた変化は、

確かにそれを

証明していた。




「前線に立つ……

 ヒーラー」




呟いた瞬間、

胸がきゅっと

締めつけられる。




怖い。


だが、

同時に――

少しだけ、

嬉しかった。




「……アレンさん」


声をかけられ、

はっとする。




マールが、

心配そうに

こちらを見ていた。




「大丈夫ですか?

 顔色が、

 少し……」




「だ、大丈夫です」


慌てて、

首を振る。




「ちょっと……

 考え事を」




マールは、

それ以上

踏み込まず、

柔らかく微笑んだ。




「今日は、

 もう休まれますか?」




「いえ……

 依頼を、

 受けたいです」




その言葉に、

マールの目が

わずかに見開かれる。




「……一人で?」




「はい」




迷いは、

なかった。




シャールの

「生き延びろ」

という言葉。




それを、

最優先にするなら。




「パーティに

 入らない理由、

 聞いてもいいですか?」




マールは、

静かに

尋ねてきた。




アレンは、

一瞬考え、

正直に答える。




「……ぼくは、

 守られる側だって

 思われると思います」




「でも、

 自分の力を

 ちゃんと知るには、

 一人の方がいい」




マールは、

少し驚いたように

目を瞬かせ、

それから、

ゆっくり頷いた。




「……なるほど」




「では、

 こちらを」




差し出されたのは、

またしても

地味な依頼書。




害獣確認。


報酬は少ないが、

危険度も低い。




「この辺りなら、

 魔物も弱いです」




「ありがとうございます」




依頼を受け取り、

ギルドを出る。




外の空気は、

少し冷えていた。




それでも、

胸の奥は

妙に熱い。




「……ソロ冒険者、か」




村では、

誰かの役に立つために

魔法を使っていた。




だが今は、

自分自身のために

歩いている。




指定された草原地帯は、

王都から

少し離れた場所にあった。




視界が開け、

風が通る。




「……静かだ」




周囲を警戒しながら、

一歩ずつ

進む。




やがて、

低い唸り声が

聞こえた。




「……いる」




現れたのは、

角の生えた獣。


ホーンラビット。




攻撃力は低いが、

素早い。


初心者殺しと

呼ばれる魔物だ。




「……落ち着いて」




杖を握る手が、

少し震える。




だが、

逃げない。




「ヒール」




自分に向けて、

魔法を使う。




淡い光が、

身体を包む。




すると、

視界が

わずかに鮮明になった。




足が、

自然と前に出る。




「……速い」




ホーンラビットの突進を、

ぎりぎりで

かわす。




心臓が、

跳ねる。




「いける……!」




再び、

回復魔法。




身体が、

さらに軽くなる。




※支援魔法

→ 戦闘能力を

 直接高める魔法。

 通常、ヒーラーは

 他者に使う。




アレンは、

自分自身を

強化している。




その事実が、

戦いの中で

少しずつ

実感に変わる。




ホーンラビットが

跳びかかる。




「……っ!」




かわし、

転ばない。




息も、

乱れない。




「……これなら」




戦わない。


倒さない。




生き延びる。




それだけを考え、

距離を取り、

隙を見て

後退する。




やがて、

魔物は

興味を失い、

草むらへ消えた。




「……はぁ」




その場に座り込み、

大きく息を吐く。




怖かった。


本当に。




だが――




生きている。




それが、

何よりの

成果だった。




依頼を終え、

日が傾く頃、

アレンは

ギルドへ戻った。




「お帰りなさい」


マールが、

微笑んで迎える。




「無事で……

 何よりです」




「はい。

 なんとか……」




報告を終え、

報酬を受け取る。




金額は少ない。


だが、

重みが違った。




「……アレンさん」




呼び止められ、

振り返る。




「ソロで

 やっていくなら……」




「絶対に、

 無理を

 しないでください」




真剣な声。




アレンは、

深く頷いた。




「はい」




その夜、

簡素な宿のベッドで、

アレンは

天井を見つめていた。




怖さは、

消えていない。




だが、

それ以上に――




「……進める」




自分は、

前に進める。




回復しかできない

少年ではない。




支え、

立ち続ける存在へ。




ソロ冒険者という選択は、

まだ小さな一歩。




だが確かに、

最強のヒーラーへ

続く道の、

始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る