第3話 再鑑定と、ギルド長シャール
森から戻ったアレンの足取りは、
どこか不安定だった。
疲れているはずなのに、
身体は軽い。
心臓の鼓動も、
すでに落ち着いている。
「……ありえない」
自分自身に、
そう呟く。
ゴブリンから逃げる直前、
確かに自分は
回復魔法を使った。
それだけだ。
それなのに――
走る速さ。
息の持ち。
足腰の安定感。
すべてが、
森に入る前より
明らかに上がっている。
「回復魔法って……
こんな効果、
あったっけ」
教わった内容には、
なかった。
ギルドへ戻る道すがら、
アレンは
何度も立ち止まり、
自分の手を見つめた。
淡い光は、
もう出ていない。
それでも、
身体の奥には
熱のようなものが
残っている。
「……気のせい、
じゃないよね」
ギルドの建物が見えた。
いつもなら、
あの喧騒に
圧倒される。
だが今は、
それどころではなかった。
扉を開ける。
中は相変わらず
冒険者で溢れている。
アレンは、
真っすぐ受付へ向かった。
「マールさん」
名を呼ぶと、
案内嬢マールは
すぐにこちらに気づいた。
「あら、アレンさん。
お帰りなさい」
「依頼は……
無事でしたか?」
「えっと……
はい。
薬草は採れました」
だが、
本題はそこではない。
アレンは、
一度息を吸い、
覚悟を決めた。
「お願いがあります。
……再鑑定を
受けさせてください」
マールの目が、
わずかに見開かれる。
「再鑑定、ですか?」
「はい。
自分のスキルが、
少し……
おかしくて」
少しではない。
だが、
そうとしか言えなかった。
マールは、
一瞬考え込むように
視線を伏せ、
それから静かに頷いた。
「わかりました。
少し、お待ちくださいね」
カウンターの奥へ行き、
誰かと短く話す。
その様子を、
アレンは
落ち着かない気持ちで
見守っていた。
しばらくして、
マールが戻ってくる。
「ギルド長が、
お会いになるそうです」
「……え?」
思わず、
声が裏返った。
「ギルド長……
ですか?」
「はい。
こちらへどうぞ」
ギルド長。
冒険者ギルドの
最高責任者。
普段は、
簡単には会えない存在だ。
マールに案内され、
奥の部屋へ進む。
喧騒が、
少しずつ遠ざかる。
重厚な扉の前で、
足が止まった。
「緊張しますよね」
マールが
小さく微笑む。
「でも、
大丈夫です。
ギルド長は、
怖い人じゃありませんから」
その言葉に、
少しだけ
救われた気がした。
扉が開く。
中は、
意外なほど
質素だった。
机と椅子。
書類の山。
壁には、
古い地図が
何枚も貼られている。
そして、
机の向こうに
一人の男が座っていた。
白髪交じりの短髪。
鋭いが、
どこか穏やかな目。
年齢は、
四十代半ばほどだろうか。
「……来たか」
低く、
落ち着いた声。
「私は、
このギルドの長、
シャールだ」
「アレンだな」
名を呼ばれ、
背筋が伸びる。
「は、はい!」
シャールは、
アレンを
じっと観察するように
見つめていた。
「十三歳。
ヒーラー。
ランクG」
「……そして、
再鑑定の希望者、
か」
その目は、
何かを
見抜くようだった。
「理由を聞こう」
アレンは、
森での出来事を
正直に話した。
ゴブリン。
逃走。
回復魔法。
そして、
身体能力の変化。
話し終えると、
部屋は
しばし静まり返った。
シャールは、
顎に手を当て、
目を閉じる。
「……なるほど」
やがて、
ゆっくりと
口を開いた。
「それは、
単なる回復魔法では
説明がつかんな」
胸が、
どくんと鳴る。
「再鑑定を
行おう」
シャールは立ち上がり、
部屋の奥へ向かう。
そこには、
最初に見たものより
大きな水晶があった。
「これは、
高位鑑定用だ」
「表面的な職種だけでなく、
魔力の流れや、
スキルの性質まで
解析できる」
「……だが」
一度、
言葉を切る。
「稀に、
想定外の結果が
出ることもある」
アレンは、
ごくりと
喉を鳴らした。
「……はい」
水晶に
手を置く。
前回と同じように、
淡い光が
広がった。
だが――
今回は、
それで終わらなかった。
光が、
脈打つ。
強く、
速く。
水晶の内部で、
光の流れが
渦を巻く。
マールが、
息を呑む音が
聞こえた。
シャールは、
目を細め、
一切視線を逸らさない。
やがて、
光が収束する。
「……やはり、
珍しいな」
シャールは、
静かに言った。
「お前のスキルは、
通常のヒーラーではない」
「【自己循環型支援魔法】」
聞き慣れない言葉。
「回復と同時に、
自身の身体能力を
底上げする」
「しかも、
回復によって消費した
魔力の一部が、
循環して戻る」
※自己循環
→ 使用した魔力が
完全には消えず、
体内で再利用される現象。
「……そんな」
アレンは、
言葉を失った。
「理論上、
倒れにくく、
長時間行動が可能だ」
「極めれば――」
シャールは、
一瞬だけ
言葉を選ぶ。
「前線に立つ
ヒーラーになれる」
その言葉は、
アレンの世界を
ひっくり返した。
ヒーラーは、
後ろにいるもの。
守られる存在。
それが、
常識だった。
「……ぼくが?」
「可能性は、
十分にある」
シャールは、
そう断言した。
「だが、
制御できなければ
意味はない」
「無茶をすれば、
命を落とす」
アレンは、
拳を握り締めた。
怖い。
だが――
胸の奥に、
確かな熱が
灯っている。
「……教えてください」
「この力の、
使い方を」
シャールは、
わずかに
口角を上げた。
「いいだろう」
「まずは、
生き延びることだ」
その日、
アレンはまだ知らない。
この出会いが、
彼を
最強のヒーラーへと
導く第一歩であることを。
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