第24章 竣工、そして——

三日後。


王都は、祝賀ムードに包まれていた。


魔王軍は撤退し、世界の柱は修復され、長かった戦争が終わった。


王城では、盛大な祝賀会が開かれていた。


「本日、ここに、天空の塔の竣工を宣言する!」


女王アリシアの声が、広間に響いた。


歓声が上がる。拍手が鳴り響く。


「この塔は、多くの犠牲と努力の上に建てられた。そして、その中心にいたのは、異世界から来た一人の職人である」


アリシアは、広間の中央に立つ男を見た。


鷹野蒼太。


傷だらけの身体。日焼けした肌。作業着姿のまま。


「鷹野蒼太。そなたに、我が国の最高位の勲章を授ける」


「えっ……」


「そなたは、この国の——いや、この世界の救世主だ。『建国の英雄』として、歴史に名を刻む」


広間が、再び歓声に包まれた。


しかし、蒼太は困惑した顔をしていた。


「あの……陛下」


「何だ」


「その勲章、辞退していいですか」


広間が、静まり返った。


「俺は、英雄じゃありません」


蒼太は真っ直ぐにアリシアを見た。


「ただの職人です。塔を建てただけです。それが俺の仕事だっただけで、特別なことはしてません」


「しかし——」


「本当の英雄は、塔を守るために戦った兵士たちです。命を賭けて、俺たちを守ってくれた」


蒼太は振り返った。


レオンハルトが、包帯を巻いた姿で立っている。多くの兵士たちが、傷を負いながらも、生き残っていた。


「そして、俺の仲間たちです」


蒼太は、広間の隅に立っている三人を見た。


ゴルド。背中に包帯を巻いているが、いつもの傲慢な表情で立っている。


リーナ。穏やかな笑顔で、蒼太を見つめている。


バルト。腕を組み、不敵な笑みを浮かべている。


「ゴルドは、俺を守るために重傷を負った。バルトは、最後まで戦い続けた。リーナは、足場を守り続けた。他の作業員たちも、みんな命懸けで働いてくれた」


蒼太は続けた。


「塔は、俺一人で建てたんじゃない。みんなで建てたんです。だから、俺だけが英雄って言われても、ピンとこない」


アリシアは、暫く蒼太を見つめていた。


やがて、小さく笑った。


「……そなたらしいな」


「すみません。せっかくの勲章なんですけど……」


「いや、いい。そなたの気持ちは、よく分かった」


アリシアは立ち上がった。


「では、こうしよう。勲章は、塔の建設に関わった全員に授ける。職人も、兵士も、全員だ」


「それなら、納得できます」


蒼太は頷いた。


「ありがとうございます、陛下」


    *    *    *


祝賀会の後、蒼太は仲間たちと塔を見に行った。


夜空に、塔が聳え立っている。


三百メートル。


人類史上、最も高い建造物。


「……すげえな」


蒼太は呟いた。


「俺たちが、これを建てたのか」


「ああ」


ゴルドが答えた。


「俺の石、リーナの木、バルトが運んだ資材。そして、お前が組んだ足場。全部、この塔になった」


「感慨深いわね」


リーナが言った。


「最初は、本当に建つのか不安だった。でも、建った」


「お前のおかげだ、ソウタ」


バルトが言った。


「お前が、俺たちをまとめた。お前が、俺たちに居場所をくれた」


「……」


蒼太は何も言えなかった。


ただ、塔を見上げていた。


「なあ、ソウタ」


ゴルドが言った。


「これから、どうする気だ」


「どうするって?」


「塔は完成した。お前の仕事は終わりだ。元の世界に帰るのか?」


蒼太は考えた。


元の世界。現代日本。


帰りたいと思ったことは、何度もあった。母親のこと、友達のこと、以前の仕事のこと。


しかし——


「帰れるかどうか、分からねえしな」


蒼太は笑った。


「それに、ここにも、やりたいことがある」


「やりたいこと?」


「この世界は、まだ建設技術が未熟だ。足場の組み方も、安全管理も、全然なってねえ」


蒼太は仲間たちを見た。


「俺は職人だ。建てることしかできねえ。でも、その技術を、この世界に広めることはできる」


「……」


「俺の親父は、俺に技術を教えてくれた。今度は、俺が誰かに教える番だ」


蒼太は拳を握った。


「この世界で、安全に働ける現場を増やす。誰も死なない現場を作る。それが、俺の新しい目標だ」


ゴルドが鼻を鳴らした。


「ふん。相変わらず、大きなことを言う奴だ」


「でも、お前らしいわ」


リーナが微笑んだ。


「俺も、付き合うぞ」


バルトが言った。


「お前の現場は、俺たちの居場所だ。どこまでもついていく」


蒼太は仲間たちを見回した。


ドワーフ、エルフ、獣人。


かつては敵同士だった種族が、今は肩を並べている。


「……ありがとう」


蒼太は静かに言った。


「じゃあ、明日から、また仕事だな」


「は? もう?」


「当然だろ。職人に休みはねえ」


蒼太は笑った。


「次の現場は、どこだ? 橋か? 城か? 何でもいい。どこでも建ててやるよ」


夜風が、四人の髪を揺らした。


塔が、月明かりに照らされて、静かに輝いている。


「天を繋ぐ者」


それが、蒼太につけられた異名だった。


異世界に転生した鳶職人。仲間と共に、伝説の塔を建てた男。


しかし、蒼太自身は、そんな呼び名には興味がなかった。


彼にとって、自分は——


「俺は、ただの職人だ」


それだけで、十分だった。


    *    *    *


数日後。


蒼太たちは、新しい現場に向かっていた。


王都の東にある村。そこに、新しい橋を建設するのだ。


「よーし、今日から新現場だ!」


蒼太の声が、朝の空気に響いた。


「まずは朝礼だ! 全員、集まれ!」


作業員たちが集まってくる。


人間、ドワーフ、エルフ、獣人。様々な種族が、肩を並べている。


「今日の作業内容を確認する! 危険箇所は——」


蒼太の朝礼が始まった。


ゴルドが腕を組み、不満そうに聞いている。しかし、その目は真剣だ。


リーナが微笑みながら、メモを取っている。


バルトが背後で、若い作業員たちを見守っている。


「——以上だ! 今日も安全第一で行くぞ!」


「へい!」


作業員たちが散っていく。


蒼太は、青い空を見上げた。


「さあ、始めるか」


新しい現場。新しい挑戦。


「天を繋ぐ者」と呼ばれるようになった鳶職人の、新たな物語が始まる。


【第24章 竣工、そして——】完

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鳶職人×異世界転生_俺の手が世界を建てる~鳶職人、異世界で伝説の塔を築く~ もしもノベリスト @moshimo_novelist

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