第21章 最終工期

魔王軍の総攻撃が始まった。


三日目の朝、飛行魔物の大群が王都に襲来した。


空を埋め尽くすほどの数。ワイバーン、グリフォン、翼竜。あらゆる種類の魔物が、塔に向かって飛んでくる。


「来たぞ! 全員、持ち場につけ!」


レオンハルトの声が響いた。


王国軍は、城壁の上に陣取り、弓と魔法で応戦した。


矢が飛び、炎が燃え、魔物が次々と落ちていく。


しかし、魔物の数は多すぎた。


何体倒しても、後から後から押し寄せてくる。


「塔を守れ! 塔を守れ!」


兵士たちが叫ぶ。


その最中——


蒼太は、足場の上にいた。


「作業、続けろ!」


蒼太の声が、現場に響いた。


「敵のことは、軍に任せろ! 俺たちは、建てる!」


作業員たちは、恐怖に震えながらも、作業を続けた。


石を積み、木を削り、足場を組む。


飛行魔物が近づいてくる。


「ソウタさん! あれ!」


エドが叫んだ。


ワイバーンが三体、塔に向かって急降下してくる。


「俺が行く!」


蒼太は足場を駆け上がった。


最上部付近。高さは百八十メートル。


風が強い。足場が揺れる。


ワイバーンが迫る。


蒼太は、足場の構造を利用したトラップを作動させた。


パン、と音がして、隠していた縄が解放された。


巨大な網が、ワイバーンに向かって広がる。


「かかれ……!」


一体目のワイバーンが、網に絡まった。


翼が動かせず、バランスを崩して落下していく。


二体目は網を避けたが、避けた先には——


「こっちだ!」


蒼太が叫ぶ。


ワイバーンが蒼太に向かって急降下する。


蒼太は咄嗟に足場を飛び降り、一段下の足場に着地した。


ワイバーンの爪が、空を切る。


「遅えんだよ!」


蒼太は足場の柱に手をかけ、素早く移動した。


ワイバーンは方向転換しようとしたが、足場の間に翼が引っかかった。


「今だ!」


下から、バルトが飛び出した。


巨大な丸太を抱えて、ワイバーンに叩きつける。


ワイバーンが吹き飛び、地面に落下した。


「ナイス、バルト!」


「礼は後だ! もう一体来るぞ!」


三体目のワイバーンが、塔の側面に取り付いた。


石壁を爪で削り、破壊しようとしている。


「させるか……!」


ゴルドが叫んだ。


ゴルドは石を掴み、ワイバーンに向かって投げつけた。


ドワーフの怪力。石は弾丸のような速度で飛び、ワイバーンの頭部に命中した。


ワイバーンが悲鳴を上げ、落下していく。


「よし……!」


しかし、息つく暇もなかった。


次の魔物が、もう迫っていた。


    *    *    *


戦闘と建設が、同時に進んでいった。


蒼太たちは、魔物の妨害をかわしながら、作業を続けた。


日中は戦闘が激しく、作業効率は落ちた。しかし、夜間は魔物の攻撃が減り、集中して作業ができた。


「夜間作業、強化だ」


蒼太は指示を出した。


「昼間は最小限の人員で作業して、夜に全力で進める」


「分かった」


ゴルドが頷いた。


「だが、夜も完全に安全じゃねえぞ。警備は必要だ」


「バルトの部隊に頼む。交代で見張りを立てて、魔物が近づいたら知らせてくれ」


「任せろ」


バルトが答えた。


リーナは木材の加工を続けていた。


「足場の追加分、間に合うわ。明日の朝までに、五十本用意する」


「頼む」


蒼太は【共鳴】を使い、作業員たちの能力を底上げした。


五分間の効果。その間に、できるだけ多くの作業を終わらせる。


「よし、俺が触れる。準備しろ」


「はい!」


蒼太が作業員に触れると、その作業員の動きが変わった。


精度が上がり、速度が上がり、迷いがなくなる。


「すげえ……自分の手じゃないみたいだ……」


「五分だけだ。その間に終わらせろ」


「はい!」


作業員が、猛スピードで作業を進める。


蒼太は次の作業員に移動し、また【共鳴】を使う。


これを繰り返す。


体力は、どんどん削られていく。


しかし、塔は確実に高くなっていった。


一週間で、二十メートル。


二週間で、四十メートル。


三週間で、六十メートル。


「あと……四十メートル……」


蒼太は息を切らしながら、塔を見上げた。


三百メートルまで、あと少し。


しかし、魔王軍の攻撃も激しさを増していた。


王国軍は、善戦していた。城壁を守り、塔への接近を防いでいた。しかし、犠牲者は日に日に増えていった。


「このままでは……」


レオンハルトが報告に来た。


「あと一週間が、限界です。それ以上は、持ちこたえられません」


「一週間……」


蒼太は考えた。


四十メートルを、一週間で建てる。


今までのペースでは、間に合わない。


「……やるしかねえな」


蒼太は立ち上がった。


「レオンハルト。一週間、時間をくれ。必ず、完成させる」


「できるのか」


「やる。絶対に」


蒼太は足場に向かって歩き出した。


「最後の一週間だ。全力で行くぞ」


夜が、明けようとしていた。


【第21章 完】

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