第19章 隠された真実

宮廷魔術師の名は、メルヴィンといった。


白髪の老人で、長い髭を蓄えている。年齢は百歳を超えているらしいが、その目は若々しく輝いていた。


「世界の柱、ですか」


蒼太は、メルヴィンの執務室で話を聞いていた。


「そうだ。この世界には、天と地を繋ぐ『柱』が存在する。目には見えないが、確かにそこにある」


メルヴィンは古い書物を開きながら説明した。


「世界の柱は、この世界を支える根幹だ。柱があるからこそ、天は天のままであり、地は地のままでいられる」


「よく分からねえな……」


「簡単に言えば、柱がなくなれば、世界は崩壊する」


蒼太は息を呑んだ。


「崩壊……?」


「空が落ち、大地が裂け、海が干上がる。全ての生命が、消滅する」


メルヴィンは深刻な表情で言った。


「千年前、この世界で大戦があった。その時、世界の柱は折れた」


「折れた……?」


「完全に折れたわけではない。しかし、大きな亀裂が入った。それ以来、世界は少しずつ崩壊しつつある」


蒼太は黙って聞いていた。


「最初は、小さな異変だった。天候の乱れ、地震の増加、魔物の凶暴化。しかし、年月が経つにつれて、異変は大きくなっていった」


「それが、魔王軍の侵攻と関係あるのか」


「ある」


メルヴィンは頷いた。


「魔王は、世界の崩壊を加速させようとしている」


「なぜだ」


「魔王自身が、崩壊から力を得ているからだ。世界が崩壊すればするほど、魔王は強くなる。完全に崩壊すれば、魔王は神にも等しい存在になる」


「だから、人類を滅ぼそうとしてるのか」


「その通りだ。人類が滅びれば、世界の崩壊を止める者はいなくなる」


蒼太は考え込んだ。


「じゃあ、塔は——」


「塔は、世界の柱を修復するためのものだ」


メルヴィンは設計図を指差した。


「この塔は、千年前の賢者たちが設計したものだ。塔の頂上に神器を設置すれば、神器の力で世界の柱が修復される」


「神器……」


「正確には、『天地の鍵』という。世界の柱と同じ力を持つ、神聖な道具だ」


メルヴィンは棚から、小さな箱を取り出した。


箱を開けると、中には金色に輝く鍵があった。


「これが、天地の鍵か」


「そうだ。この鍵を、塔の頂上に設置する。そうすれば、鍵から放たれる力が、世界の柱を修復する」


蒼太は鍵を見つめた。


「なんで、今まで誰も塔を建てなかったんだ」


「建てようとした者はいた。しかし、全て失敗した」


メルヴィンは溜息をついた。


「三百メートルの高さを建てる技術が、この世界にはなかったからだ。そして——」


「そして?」


「魔王が、建設を妨害してきたからだ。塔が完成すれば、魔王の計画は頓挫する。だから、魔王は全力で建設を阻止しようとしている」


蒼太は頷いた。


「なるほど。だから、ワイバーンが襲ってきたのか」


「その通りだ。今後、妨害はさらに激しくなるだろう」


「……」


蒼太は暫く考え込んでいた。


やがて、顔を上げた。


「一つ、聞いていいか」


「何だ」


「さっき、塔に触れたとき、変な力を感じた。下から上に向かって、引っ張られてるような」


「それは——」


メルヴィンの表情が、僅かに変わった。


「世界の柱の残響だ」


「残響?」


「折れた柱の力が、まだ残っている。塔は、その力を吸収しながら建っている」


「吸収……?」


「塔は、単なる建造物ではない。世界の柱と同じ力を持つ、特殊な構造物だ。建設が進むにつれて、塔自体が力を帯びていく」


蒼太は塔を見つめた。


「つまり、俺が感じた力は——」


「塔が、世界の柱として機能し始めている証拠だ」


メルヴィンは真剣な目で蒼太を見た。


「鷹野蒼太。そなたは、世界の命運を握っている」


「……大袈裟だな」


「大袈裟ではない。塔を完成させられるのは、そなただけだ」


メルヴィンは立ち上がった。


「そなたの【匠の手】は、構造物の強度を感知できる。それは、塔の力を感知できるということでもある」


「……」


「塔が完成に近づくにつれて、力は強くなっていく。その力を制御できるのは、そなただけだ」


蒼太は黙っていた。


世界の柱。魔王の計画。塔の真の目的。


想像を超えた話だった。


しかし、やることは変わらない。


「分かった」


蒼太は立ち上がった。


「塔を建てる。それが俺の仕事だ。世界を救うとか、そんな大層なことは分からねえ。でも、仕事は最後までやる」


メルヴィンは微笑んだ。


「頼もしいな」


「あと、一つ頼みがある」


「何だ」


「今の話、仲間にも共有していいか。ゴルドやリーナ、バルトにも」


「構わない。むしろ、共有すべきだ。これからの戦いには、全員の力が必要になる」


蒼太は頷いた。


「分かった。じゃあ、戻る。明日も、仕事だからな」


蒼太は執務室を出た。


廊下を歩きながら、空を見上げた。


夜空に、塔が聳え立っている。


「世界の柱、か」


蒼太は呟いた。


「俺が建ててるのは、柱だったのか」


なんだか、途方もない話だ。


しかし、不思議と、重圧は感じなかった。


やることは、変わらない。


足場を組み、石を積み、木を削り、塔を建てる。


それが、職人の仕事だ。


「よし」


蒼太は拳を握った。


「明日からも、頑張るか」


夜風が、蒼太の頬を撫でていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る