第27話:班分けと、最悪のくじ引き

 翌日、ホームルーム。

 教室は、ある話題で持ちきりになっていた。


「えー、来週の林間学校についてだが。……今日は班決めを行う」


 担任の言葉に、クラス中がどっと沸いた。

 林間学校。

 それは高校生活における一大イベントであり、青春の1ページであり、そしてスクールカーストの残酷さを浮き彫りにする儀式でもある。


 ルールは簡単。男女混合の4人1組を作ること。


「はいはい! 私、〇〇君と一緒がいい!」

「お前ら余りそうだから入れてやるよー」


 教室内で人間関係の離合集散が始まる中、俺――カイトは、頭を抱えていた。


 (4人1組……。どう考えても、メンバーは固定だよな)


 俺がチラリと横を見る。

 隣の席の美少女――天堂カレンが、氷の微笑を浮かべて周囲を威圧していた。


「……カイト君と組みたい人、いる?(訳:近づいたら凍らせるわよ)」


 彼女の周りには、半径2メートルの絶対零度結界(物理的に)が展開されている。誰も近寄れない。これで1枠確定。


 そして、俺の後ろの席。

 机に突っ伏して寝ている赤髪の転校生――アグニ。


「あァ? 班決め? だりィ……。大将、適当に決めといてくれよ」


 こいつも確定だ。

 アグニを野放しにすれば、キャンプファイヤーで山ごと燃やしかねない。俺が手綱を握る必要がある。


 これで3人(俺、カレン、アグニ)。

 問題は、あと1人だ。

 この「魔王」と「ヤンキー」がいる異色グループに入りたがる奇特な生徒がいるだろうか?


「……いないな」


 数分後。

 案の定、俺たちは孤立していた。

 カレンの独占欲オーラと、アグニの不良オーラが強すぎて、一般生徒が誰も近づいてこないのだ。


「先生ー。私たち3人でもいいですか?」

「ダメだ。規則だからな。……誰か余ってる奴はいないか?」


 担任が教室を見渡す。

 その時。

 教室の隅で、ポツンと文庫本を読んでいた男子生徒が手を挙げた。


「あ、先生。俺も余ってます」


 黒髪の、少し眠そうな目をした少年。

 レンだ。


「おお、レンか。……じゃあ、ちょうどいい。カイトたちの班に入れ」

「ういーす」


 レンは本を閉じ、鞄を持って俺たちの席に歩いてきた。


「よお、カイト。……どうやら残り物同士、縁があるみたいだな」

「レン! お前、いいのか?」

「いいも何も、選択肢がないからな。……それに」


 レンはチラリとカレンとアグニを見て、ニヤリと笑った。


「学園の二大有名人と一緒なんて、退屈しなさそうだしな」

「……物好きな奴ね」


 カレンが不満げに呟くが、拒否はしなかった。

 彼女にとっても、レンは「カイトの無害な友人A」という認識なのだろう。アグニに至っては「おう、よろしくなヒョロガリ」と既にマブダチ気取りだ。


 (助かった……!)


 俺は心底安堵した。

 レンなら気心も知れているし、何より「普通」だ。

 この異常なメンツの中和剤になってくれるに違いない。

 それに、理事長から頼まれた「警護任務」の際も、レンになら事情を話せば協力してくれるかもしれない。


「よろしくな、レン。……苦労かけるかもしれないけど」

「気にするなよ。……俺たち、親友だろ?」


 レンは爽やかに笑い、俺の肩をポンと叩いた。


「俺にできることなら、なんだって手伝うさ。……『最後まで』な」


 こうして、林間学校の班が決まった。

 

 1班:カイト、カレン、アグニ、レン。

 

 俺はまだ知らない。

 この班分けが、偶然ではなく必然だったことを。

 そして、自分が「守るべき対象」と「最大の敵」を、同時に抱え込んでしまったことを。


 さらに言えば。

 もう一つ、忘れてはいけない「大荷物」がある。


 『……ねえ、大将。俺、林間学校いくの?』


 アグニの鞄の中から、小さな声が聞こえた。

 ガンマだ。

 まさか寮に幼児を一人で放置していくわけにはいかない。

 俺たちは、この「動く爆弾」を密輸して、バスに乗り込まなければならないのだ。


「……前途多難すぎるだろ」


 俺は天を仰いだ。

 林間学校のしおりには、楽しい予定が書かれている。

 だが俺の視界には、これから訪れるトラブルの予兆しか見えていなかった。

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