第24話:英雄の休日

日曜日。

 雲ひとつない快晴。絶好の行楽日和。

 俺たちは学園近くの公園に来ていた。


「兄ちゃん、もっと高く! もっと!」

「ちっ、注文の多いガキだぜ。……ほらよッ!」

「キャハハハ! とぶ〜!」


 ブランコに乗ったガンマの背中を、アグニが全力で押している。

 勢いが良すぎてブランコが半回転しそうな角度まで上がっているが、ガンマは恐怖どころか大喜びだ。

 周りの親子連れが「あの赤髪のお兄さん、ヤンキーっぽいけど面倒見いいわね……」とヒソヒソ話している。

 アグニの奴、意外と「お兄ちゃん属性」があったらしい。


「カイト君。あーん」

「……あーん」


 ベンチに座る俺の口に、カレンがソフトクリームを運んでくる。

 彼女は上機嫌だ。俺と公然とデート(おまけ付きだが)ができているからだ。

 平和だ。

 数日前まで地下で殺し合いをしていたとは信じられない光景だ。


 (……すごいメンツだな、改めて見ると)


 俺は『英雄の器』を発動し、仲間たちを視る。


 ブランコで遊ぶ無邪気な少年は、国を食い尽くす『暴食』の怪物・序列第五位。

 その背中を押すヤンキーは、全てを灰にする『紅蓮』の災害・序列第七位。

 

 敵対組織『七つの大厄災』。

 その幹部クラスのうちの2名を、俺は引き抜き、無力化することに成功した。


 そして、俺にアイスを食べさせているこの美少女。

 彼女こそが、組織が世界を滅ぼすための「道具」として覚醒させようとしている『氷の魔王』だ。


 さらに言えば――。


「……ねえ。私のアイス、まだ?」


 俺の足元の影から、不満げな声が響く。

 『境界の魔女』ノクティス。

 組織とは無関係だが、俺に執着する危険なストーカー。


「ほら、カレンに見つからないように受け取れ」

「ん。……ありがと」


 俺はベンチの隙間から、こっそりとカップアイスを影の中に落とした。

 カレンにバレたらまた修羅場だが、ノクティスも一応「共犯者」だ。これくらいの配給は必要だろう。


 敵の戦力を削ぎ、核となる魔王の手綱を握り、イレギュラーな魔女すら手駒にする。

 綱渡りだが、盤面は確実にこちらに傾いている。


 (……俺が守りたかったのは、こういう景色だ)


 俺は空を見上げた。

 前の世界では見られなかった光景。

 カレンが笑い、敵だったはずの連中も、根っからの悪人じゃないと知った。

 彼らはただ、組織に利用されていたり、居場所がなかったりしただけだ。


「……カイト君。どうしたの? 難しい顔して」


 カレンが俺の顔を覗き込む。

 俺は苦笑して、スマホを取り出した。


「いや……明日のことを考えてたんだ」


 画面には、昨夜届いたメールが表示されている。

 『月曜日の放課後、理事長室へ』。

 差出人は、神代レイ理事長。


「理事長からの呼び出し……。やっぱり、地下鉄の一件かな」

「たぶんね。アグニとガンマのことは誤魔化したけど、カイト君たちが現場にいたことはバレてるもの」


 カレンがつまらなそうに言う。

 俺にとって、神代理事長は「話の分かる教育者」だ。

 アグニの転校を認め、俺たちの学園生活を見守ってくれている。

 だが、さすがに「怪物を隠蔽している」ことがバレれば、退学処分もあり得る。いや、それ以上にガンマが組織や研究機関に引き渡されてしまうかもしれない。


「……うまくやらなきゃな」


 俺は拳を握った。

 この平和な「休日」を守るためには、明日、理事長を納得させなきゃならない。

 嘘をつくのは心苦しいが、ガンマたちを守るためだ。

 「善良な生徒」として振る舞い、あくまで「被害者として巻き込まれただけ」とシラを切る。

 それが、明日のミッションだ。


「大丈夫よ」


 カレンが俺の手に、自分の手を重ねた。

 ひんやりとして、でも温かい手。


「もし理事長がカイト君をいじめるようなら、私が理事長室ごと凍らせてあげるから」

「それはやめろ! 絶対だぞ!?」

「冗談よ。……カイト君がいれば、なんとかなるわ」


 根拠のない信頼。

 だが、それが今の俺には一番の力になった。


「――おーい! 大将! そろそろ帰ろうぜ!」


 アグニが手を振る。

 遊び疲れたガンマが、アグニの背中でウトウトと眠っていた。


「ああ、帰ろう」


 俺は立ち上がった。

 休日は終わりだ。

 明日は、この学園のトップとの対面。

 

 覚悟を決めろ、カイト。

 ここからが、本当の戦いだ。

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