第23話:暴食の偏食事情
昼休みの屋上。
そこは、奇妙なピクニック会場と化していた。
「……まずい。すな、かじってるみたい」
幼児化したガンマが、購買で買ってきた焼きそばパンを一口かじり、ぺっと吐き出した。
その足元には、既に10個以上のパンの袋が散乱している。
「おいコラ、贅沢言ってんじゃねェぞ! 一個150円だぞ!」
「だってお腹いっぱいにならないもん! もっと……もっと『濃い』のが食べたい!」
ガンマが手足をバタつかせて駄々をこねる。
アグニが頭を抱えた。
「ダメだ大将。こいつ、普通の飯じゃ満足しねェ。……やっぱり魔力がねェとダメみてェだ」
「だろうな。元が『暴食』の怪獣だ。カロリーじゃなくマナをエネルギーにしてるんだろ」
俺はため息をついた。
このままではガンマが再び飢餓状態で暴走し、元の姿に戻ってしまうかもしれない。
かといって、カレンに魔法を撃たせてそれを食べさせるのは目立ちすぎるし、何よりカレンが嫌がる。
「……ねえ、カイト君」
隣に座っていたカレンが、重箱のような巨大な弁当箱を膝に乗せ、頬を赤らめていた。
「そんな薄汚い子供のことは放っておいて……私とお昼にしましょう?」
「あ、ああ。そうだな……」
「今日のお弁当は自信作よ。カイト君への愛を魔力に変換して、一晩中煮込んだ『特製愛妻シチュー』なんだから」
カレンが蓋を開ける。
カパッ。
――ドォォォォン……。
効果音が聞こえそうなほどの、禍々しい紫色のオーラが噴き出した。
シチュー? いや、これは泥沼だ。
具材がドロドロに溶け、表面にはハート型の謎の物体が浮き沈みしている。
そして何より、空間が歪むほどの高密度魔力が放出されている。
俺の『英雄の器』が警告を発した。
――――――――――――――
【警告:劇物検知】
■ 対象:カレンの手料理
■ 成分:愛情過多、魔力濃度5000%
■ 摂取効果:一般人は即死。カイトは腹を壊す。
――――――――――――――
(死ぬ……! これを食ったら俺の胃袋が爆発する!)
カレンの料理は毎回こうだ。
味は(多分)美味しいのだが、魔力を込めすぎて、人間が摂取できる許容量を超えているのだ。
その時。
ガンマが鼻をヒクつかせた。
「……いいにおい」
「え?」
「すごい……すごい匂いがする! あまくて、濃くて、ビリビリする匂い!」
ガンマが涎を垂らし、カレンの弁当箱に釘付けになっている。
そうか。
一般人には「毒」となる過剰魔力も、魔力を主食とするガンマにとっては「極上の御馳走」なのか!
俺の中で、悪魔的な閃きが走った。
これは、ウィンウィンの関係になれるのでは?
「カレン。……相談なんだが」
「なあに? あーんしてほしいの?」
「いや、そうじゃなくて。……君の料理は最高だ。最高すぎるがゆえに、俺一人で独占するのはもったいないと思うんだ」
「?」
「見てくれ、この飢えた子供を。……俺たちの『愛の結晶』を、少し分け与えてやるのも、慈愛に満ちた王の務めだと思わないか?」
俺は必死にそれっぽい言葉を並べた。
カレンは一瞬ムッとしたが、「愛の結晶」「王の務め」というワードに反応し、まんざらでもない表情になった。
「……まあ、カイト君がそう言うなら。私たちの愛は海より深いから、多少こぼしてあげても無くならないものね」
「そ、そうそう! じゃあガンマ、ほら食え!」
俺が許可を出すと、ガンマは野獣のように弁当箱に飛びついた。
スプーンなど使わず、顔ごと突っ込む勢いでシチューを啜る。
「おいしい! おいしい! 力が……力が湧いてくるぅぅぅ!」
バクバク、ムシャムシャ!
ガンマの身体が淡く発光する。
カレンの込めた膨大な魔力が、ガンマの空っぽのタンクを満たしていく。
「……すげェ食いっぷりだな」
アグニが若干引いている。
ノクティスも影から『うわぁ……あれ完食できるの?』と呆れた念を送ってくる。
数分後。
ガンマは空になった弁当箱を舐め回し、満足げにゲップをした。
「ふぅ……満腹」
「ど、どうだ体調は?」
「うん! お腹いっぱい! もう暴れたくない!」
ガンマの肌艶が良くなり、目のクマも消えていた。
成功だ。
カレンの「重すぎる愛」の処分先として、これ以上ない人材が見つかった。
「……ふん。味の分かるガキね」
カレンも、自分が作ったものを美味しそうに(実際は狂ったように食べていたが)食べられたことで、悪い気はしていないようだ。
「よし。これからは昼飯のたびに、カレンの弁当の余りをガンマに処理……いや、お裾分けすることにしよう」
「なによ、余りって。カイト君の分はちゃんと別に作るわよ?」
「い、いいえ! 俺は購買のパンで十分です! カレンの手作りは特別な日だけにしないと、ほら、ありがたみが薄れるから!」
俺は必死に弁解し、なんとかその場を収めた。
アグニは呆れ顔で、ガンマの口元の汚れを拭いてやっている。
こうして、俺たちの奇妙な食物連鎖が完成した。
カレンが魔力を込める → ガンマがそれを食う → 平和。
完璧だ。
……まあ、俺の胃痛の原因が、物理的な死から精神的な疲労に変わっただけな気もするが。
だが、そんな平和なランチタイムも束の間。
俺のスマホが、短い振動音と共に通知を表示した。
『理事長室より呼び出し。月曜日の放課後、速やかに来室されたし』
画面を見た瞬間、俺の背筋が凍りついた。
送信者は――『神代レイ』。
この学園の頂点にして、俺をこの世界に招き入れた張本人からの招待状だった。
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