第16話:影のワルツと鋼鉄の咆哮
作戦会議(という名の脅迫めいた取引)は30秒で終了した。
地上からは『天剣』レオナードが降りてきている。彼に見つかれば、ギガントごと俺たちも「駆除」対象になりかねない。
時間がない。
「行くぞ。……配置につけ!」
俺の号令と共に、ノクティスが影を解除した。
再び、崩壊した地下鉄のホームへ転移する。
「ガァアアアアッ!!」
進化したギガントが、漆黒の腕を振り回して暴れまわっていた。
周囲のコンクリートは粉砕され、鉄骨が飴細工のようにねじ曲がっている。
俺たちの姿を認めるなり、その巨大な口から涎を垂らした。
「エサ……エサだ……!」
「悪いな、デカブツ。デザートの時間は終わりだ!」
真っ先に飛び出したのはアグニだ。
彼は炎を纏わず、純粋な身体能力だけでギガントの懐に飛び込んだ。
「オラァッ!!」
ドォォォン!
アグニの回し蹴りがギガントの膝関節に炸裂する。
だが、鋼鉄化した皮膚はびくともしない。逆にアグニの方が反動で顔を歪める。
「硬ェ! マジで岩盤より硬くなってやがる!」
「ムシ……イタイ……」
ギガントが鬱陶しそうに腕を振るう。
ただの裏拳だが、質量が違う。直撃すればアグニでも即死だ。
「アグニ、右へ跳べ! しゃがむな!」
俺の『英雄の器』が最善手を弾き出す。
アグニは俺の声を疑いもせず、反射的に右へ跳躍した。
直後、彼がさっきまでいた空間を、ギガントの剛腕が通過し、背後の柱を粉砕した。
「へッ、ナイス指示だ大将! ……だが見ろよ、傷一つついてねェぞ!」
物理無効。魔法吸収。
詰んでいるように見えるが、攻略の糸口はある。
俺はステータス画面を凝視し、ギガントの胸部――分厚い装甲の奥に輝く「赤い光」を見つけた。
――――――――――――――
【攻略解析】
■ 弱点部位:魔力炉(コア)
■ 位置:胸骨下30センチ、深部
■ 攻略法:『影縛り』による完全拘束 → 最大火力の物理貫通攻撃
――――――――――――――
「カレン! 魔法は使うなよ! 吸われるぞ!」
「分かってる! ……でも、魔法なしでどうやってあの装甲を貫くの?」
「一点集中だ。……お前の氷で、世界一鋭い『杭』を作れ。それをアグニが打ち込む!」
俺は叫び、影の中に潜む魔女に合図を送った。
「ノクティス! 今だ! あいつの動きを止めろ!」
ギガントの足元の影が、生き物のように蠢いた。
そこから無数の「黒い鎖」が噴出し、巨人の四肢に絡みつく。
「ギィッ!? な、なに……!?」
ギガントが藻掻くが、影の鎖は食い込むほどに締まる。
物理的な拘束ではない。影という概念そのものを縫い留める『影縛り(シャドウ・バインド)』。
「……んっ、くぅ……! 重い……!」
瓦礫の陰で、ノクティスが脂汗を流していた。
彼女の華奢な腕には、血管が浮き出ている。
「カイト君、早くして! 5秒……いや、3秒が限界よ! この子、馬鹿力が過ぎるわ!」
「3秒でいい! カレン、アグニ! 合わせろ!」
カレンが両手を突き出す。
魔力を拡散させず、極限まで圧縮する。
生成されたのは、ダイヤモンドよりも硬く鋭い、長さ3メートルの「氷のパイルバンカー」。
「アグニ! 蹴り込め!」
「合点承知ィィッ!!」
アグニが跳躍し、空中で回転を加える。
炎ではなく、渾身の脚力と体重を乗せた、必殺の踵落とし。
その標的は、カレンが作り出した氷の杭の「底」だ。
「砕けろォオオオオオッ!!」
ズドォォォォォンッ!!
アグニの踵が杭を打ち抜き、その衝撃で氷の切っ先がギガントの胸部装甲を貫いた。
硬質な皮膚が砕け散り、黒い血飛沫が舞う。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!? イタイ! イタイイタイ!!」
ギガントが絶叫し、暴れ狂う。
その衝撃で影の鎖が千切れ、ノクティスが吹き飛ばされた。
だが、届いた。
装甲を貫き、コアまであと数センチ。
「……やったか?」
「いや、まだだ!」
俺の警告通り、ギガントの傷口が泡立ち、急速に再生を始めていた。
再生能力が高すぎる。このままでは押し出される!
その時。
俺たちの頭上で、さらなる絶望の音が響いた。
カツン、カツン……。
瓦礫を踏む、静かで規則的な足音。
地下鉄の階段を降りてきた「誰か」が、戦場の空気を一変させた。
「……やれやれ。酷い有様だね」
煙の中から現れたのは、黄金の髪に碧眼の美少年。
手には、鞘に収まったままの剣。
「地下鉄でガス爆発があったと聞いたけど……これは、少し『度が過ぎる』んじゃないかな?」
レオナード。
生徒会長が、戦場に到着してしまった。
ギガント、カイト達、そしてレオナード。
最悪の三つ巴が完成した。
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