第14話:誤算、あるいは最悪の進化
作戦は完璧に思えた。
カレンが生成した特製のスイーツ「高濃度魔力氷」は、ギガントの食欲を強烈に刺激した。
「おいしい……あまい……!」
ギガントはカレンが放つ氷の礫を、夢中で頬張っていた。
バリボリと凄まじい音を立てて咀嚼するたびに、その巨体から殺気が薄れていく。
アグニも巨人の足元をチョロチョロと走り回り、注意を引きつけながら時間を稼いでいる。
「よし、いいぞ。ペースを上げろカレン!」
「もう、注文が多いんだから。……はい、特大パフェよ!」
カレンが巨大な氷柱を生成し、ギガントの口に放り込む。
それを飲み込んだ瞬間、ギガントの動きが止まった。
満足げなため息と共に、その場に座り込む。
「……おなか、いっぱい」
やったか?
俺が安堵しかけた、その時だった。
ドクンッ。
ドクンッ、ドクンッ。
地下空間全体を揺らすような、不気味な鼓動が響き渡った。
ギガントの身体が、赤く脈打ち始める。
「……おい大将。なんか様子が変だぞ」
アグニが後ずさる。
俺の『英雄の器』が、けたたましい警告音を鳴らした。
――――――――――――――
【警告:エネルギー臨界点突破】
■ 対象:ギガント
■ 状態:『満腹』による『進化(レベルアップ)』開始
■ 予測:魔力過多による変異。危険度上昇。
――――――――――――――
(進化だと……!?)
そうか。こいつの能力は『無限捕食と進化』。
腹がいっぱいになったら眠るんじゃない。「成長」するんだ!
俺の指示は、こいつに大量の経験値を与えてしまっただけだったのか!?
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」
ギガントの背中が裂け、中から新たな腕が2本生えてきた。
さらに皮膚が鋼鉄色から、禍々しい漆黒へと変色していく。
あどけなかった顔つきは、牙の並ぶ凶悪な鬼の相へと変わった。
「足りない……足りないッ! もっと寄越せェ!!」
声が変わった。
幼児のような口調から、明確な悪意を持った怪物の咆哮へ。
「カイト君! 魔力を吸われる速度が上がってる!」
カレンが悲鳴じみた声を上げる。
進化したギガントは、カレンが魔法を放つまでもなく、周囲の空間から強制的に魔力を吸い上げ始めたのだ。
カレンの顔色が青ざめ、膝をつく。
「させるかよッ!」
アグニが跳躍し、炎を纏った蹴りをギガントの顔面に叩き込む。
だが。
ガギィンッ!!
金属音と共に、アグニの方が弾き飛ばされた。
「硬ェ!? さっきまで柔らかかった皮膚が、オリハルコン並になってやがる!」
「無駄だ、雑魚が」
ギガントの4本の腕が、アグニとカレンを同時に薙ぎ払う。
衝撃波だけで、地下鉄のトンネルが崩壊し始める。
「ぐわぁっ!!」
「きゃぁっ!!」
二人が瓦礫の中に吹き飛ばされる。
俺は爆風に煽られながら、必死に柱にしがみついた。
強い。
さっきまでとは次元が違う。
これが『七つの大厄災』序列第五位の本気。
ただデカいだけの木偶の坊ではない。一度進化すれば、手がつけられない「災害」となる。
「どこだ……極上の餌はどこだ……」
漆黒の巨人が、瓦礫に埋もれたカレンを探して歩き出す。
このままじゃ、カレンが食われる。
アグニもダメージが大きく、すぐには動けない。
万事休すか。
いや、まだだ。
俺は瓦礫の影に身を潜めながら、必死に思考を巡らせた。
(力押しじゃ勝てない。餌付けも失敗した。なら……環境を利用するしかない!)
ここは地下鉄。複雑に入り組んだ迷宮だ。
まともに戦えば全滅する。
今は一度退いて、体勢を立て直すしかない。
「二人とも! 撤退だ! 第3通路へ走れ!」
俺の声に、ギガントがこちらを向いた。
「――見つけた。エサの飼い主」
巨大な手が、俺目掛けて振り下ろされる。
俺は死を覚悟して目を閉じた――その時。
キィィィィンッ!
鋭い金属音が響き、ギガントの腕が空中で止まった。
いや、止められたのだ。
影から伸びた「漆黒の鎖」によって。
「……あらあら。随分と無様なダンスを踊っているじゃない、カイト君」
俺の影の中から、妖艶な笑い声が響く。
ぬるりと現れたのは、黒いドレスを纏った謎の美女。
「だ、誰だ!?」
俺が問うと、彼女は唇に指を当ててウィンクした。
「私の名はノクティス。……貴方の『影』よ」
新たな「厄災」級の乱入者が、戦場をさらに混沌へと変える。
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