第13話:鋼鉄の迷宮と、暴食の産声

 地下鉄のホームが、轟音と共に揺れた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


 序列第五位『深淵の暴食』ギガントが咆哮する。

 その巨体が砲弾のように跳躍し、俺たち目掛けて落下してくる。単純な質量攻撃だが、直撃すればミンチだ。


「チッ、相変わらず挨拶もなしかよ! 脳みそ空っぽだなテメェは!」


 アグニが俺の前に飛び出し、炎の拳を振り上げた。


「オラァッ! 久しぶりだなァ、ギガント!!」


 ドォォォォン!!

 炎の拳と、ギガントのボディプレスが激突する。

 爆風が吹き荒れ、俺は吹き飛ばされないようにカレンにしがみついた。


「……おい、デカブツ! 俺だ、アグニだ! 分かんねェのか!?」


 アグニが炎を噴射して押し返しながら、かつての同僚に叫ぶ。

 組織(七つの大厄災)では、共に「汚れ仕事」を押し付けられることが多かった二人だ。アグニなりに、知能の低いこの巨人を気にかけていたのだろう。


 だが、ギガントの反応は残酷だった。


「……あぐに? ……あぐに、だ」


 ギガントの巨大な口が歪む。

 そこにあるのは再会の喜びではなく、ただの「食欲」だった。


「あぐに……よく焼けてる……おいしそう……いただきまーす!!」

「ッ!? ふざけんな!」


 ギガントの胸部が裂け、そこから新たな「口」が出現した。

 バクンッ!

 アグニの放った必殺の炎が、その口に吸い込まれていく。


「な……俺の炎を食いやがった!?」


 驚愕するアグニを、ギガントの裏拳が襲う。

 アグニは防御したが、体重差がありすぎる。ボールのように弾き飛ばされ、コンクリートの壁にめり込んだ。


「ぐ、がッ……! 化け物め、またデカくなってやがる……!」


 食べた炎をエネルギーに変換したのか、ギガントの身体が一回り膨張し、皮膚の光沢が増した。


「カイト君、あいつ気持ち悪い」


 カレンが冷徹に言い放つ。

 彼女が手をかざすと、空間に無数の氷槍(アイス・ランス)が出現した。


「私のカイト君を狙う害獣は駆除よ。――串刺しになりなさい」


 ヒュヒュヒュンッ!

 機関銃のような勢いで氷槍が殺到する。戦車すら貫く威力だ。

 だが――。


 ガリッ、ボリッ、ムシャァ!


 ギガントは避けもしなかった。

 身体中に突き刺さった氷を、まるでスナック菓子のように筋肉で砕き、あるいは引き抜いてバリバリと咀嚼し始めたのだ。


「……つめたい。ガリガリする。……おいしい!」


 ギガントの背中から、水晶のような「氷の突起」が生えてくる。

 カレンの魔力を取り込み、氷属性への耐性を獲得しつつあるのだ。


「嘘……私の魔法が、通じない?」


 カレンが目を見開く。

 彼女は最強だ。だが、その強さは「圧倒的な魔力」に依存している。相手がその魔力を「食事」として吸収する場合、相性は最悪となる。


「カレン、魔法はやめろ! あいつに餌を与えてるだけだ!」


 俺は叫んだ。

 『英雄の器』でギガントのステータスを見る。


 ――――――――――――――

 【対象:ギガント】

 ■ 特性:エネルギー吸収、無限進化

 ■ 弱点:なし(物理・魔法ともに捕食対象)

 ■ 攻略ヒント:『満腹中枢への過剰供給』または『内部からの崩壊』

 ――――――――――――――


 (倒すんじゃない。満たしてやるんだ)


 俺は冷や汗を拭い、壁から這い出てきたアグニに声をかけた。


「アグニ! 生きてるか!」

「あったりめェだ! ……だがあの大食らい、どうすんだよ大将。殴っても焼いても食われちまうぞ」

「作戦を変える。……お前の知ってるギガントは、何が一番好きだった?」


 アグニは一瞬考え込み、苦々しく答えた。


「……甘いもんだ。組織の配給の羊羹とか、チョコとか……ガキみてェに喜んで食ってやがった」

「甘いもの、か」


 俺の中でピースが繋がった。

 ギガントはただ暴れているんじゃない。組織の実験で飢餓状態にされ、糖分と魔力が枯渇して暴走しているだけだ。


「カレン。君の『氷』の魔力構成を変えられるか?」

「え?」

「攻撃用じゃない。最高純度の、甘くて美味しい『魔力シロップ』みたいな氷を作ってくれ」

「……は? 敵にお菓子あげるの?」

「そうだ。アグニ、お前はカレンがそれを作るまでの間、肉弾戦で時間を稼げ! 炎は使うな、熱だけで注意を引け!」


 俺の無茶な指示に、二人は顔を見合わせた。

 だが、すぐにニヤリと笑った。


「へッ、相変わらずイカれた命令だぜ……了解だ、大将!」

「カイト君が言うなら……とびきり甘いやつ、作ってあげる」


 俺は一歩前に出た。

 戦闘力皆無の俺ができること。それは、指揮だけだ。


「総員、作戦開始! あの巨人を『お腹いっぱい』にしてやれ!」

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