第2話 二回目は、だいたい信じてない

 人は一度だけなら、だいたい何でも夢だと思える。


 昨日の出来事も、そういう類だと処理した。

 昼を抜いた空腹、妙にリアルなコスプレ店、やけにうまい定食。

 疲れてたんだろう。そういうことにしておくのが一番平和だ。


 ただ問題が一つあった。


 ——今日も、腹が減っている。


 前日の反動か、朝から仕事が立て込んだ。気づけば時計は午後三時。完全に昼飯を逃している。

 腹が鳴るたびに、昨日の味が脳裏をよぎった。


「……いやいや」


 俺は首を振った。

 あれは偶然だ。たまたま変な店に入っただけ。毎回あるわけがない。


 とはいえ、同じ商店街を歩いている自分がいる。


 目的地は決めていない。

 ただ、足が向かう。


 昨日の場所に近づくにつれ、嫌な予感が膨らんだ。

 ——あの店、今日もあったらどうする。


 あった。


 昨日と同じ場所。

 同じ木のドア。

 同じ、よく分からない看板。


「……」


 俺はしばらく立ち尽くした。


 入らなければいい。

 無視して別の店に行けばいい。


 分かっている。

 でも、腹が減っている。


「昼飯だぞ。昼飯」


 自分に言い聞かせるように呟き、ドアを開けた。


 ——昨日と同じだった。


 広さも、匂いも、ざわつきも。

 そして、客層。


 今日はさらにひどい。

 明らかに二メートル超えの何かが、カウンターに肘を乗せている。背中の羽、畳め。


「……来たな」


 店主が言った。


「え、覚えられてるんですか」


「昨日来た」


「それだけで?」


 返事はない。

 雑だ。


 空いている席に座る。隣には、全身包帯の男がいた。

 視線を合わせない。深く関わらない。それが異常空間で生き残るコツだ。


 メニューを見る。

 今日も普通。


「日替わりで」


 昨日と同じ注文をした自分に、少し腹が立った。


 料理を待つ間、包帯男がこちらを見た。


「……人間か」


「たぶん」


「勇者ではないな」


「違います」


 即答すると、包帯男は安心したように頷いた。


「では安心だ」


「何が」


「勇者は落ち着いて食事をしない」


 偏見がひどい。


 料理が来た。

 今日は煮込みだった。スプーンを入れると、ほろほろ崩れる。


「……うま」


 やっぱりうまい。


 包帯男がこちらを見ている。


「それは何だ」


「煮込みです」


「……それは、安全か」


「たぶん」


 少し考えて、俺はスプーンを差し出した。


「一口どうです?」


 包帯男は慎重に口に運び、目を見開いた。


「……生き返る」


「大げさですね」


「三日前からこういうのを食べていなかった」


 何があったんだ、この世界。


 食事中、背中に羽の生えた客が立ち上がり、頭をぶつけた。

 天井は高いはずなのに、なぜかぶつけている。


「狭いな」


「それ、あなたがでかいだけですよ」


 つい口を挟むと、羽の客は不思議そうにこちらを見た。


「……お前、見えるのか」


「普通に」


「そうか」


 それだけで納得するな。


 食べ終わる頃には、店内の異様さにも慣れていた。

 慣れてしまった自分が一番怖い。


 会計を済ませる。


「今日は普通ですね」


 思わず店主に言うと、皿を拭きながら答えた。


「腹の具合が昨日と同じだ」


「腹で判断してるんですか」


「お前がな」


 意味が分からない。


 店を出る。

 外はいつもの商店街だった。


 振り返ると、店は——あった。


「あ、あるんだ」


 昨日は消えてたのに。


 腹に手を当てる。

 しっかり満腹だ。


「……」


 少しだけ、確信が生まれた。


 これは夢じゃない。

 そして——たぶん。


「腹が減ってるときだけ、なんだよな」


 次は、もう少し意識してみよう。

 何を食べたいか。


 そう考えた瞬間、腹が鳴った。


 ——まだ早い。

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腹が減ると、異世界に繋がる 銀河星二号(GalaxyStar2) @kumapom

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