出発!
もっと早くに出発したらよかろうに。
そう思った。だって出発時間は午前10時。ゆっくりすぎやしないか。急ぐんでしょ?
お城の門を出て、その理由が分かった。沿道沿いには大勢の民衆。王家の紋章の旗を手に、手を振り歓声を上げ、中には「いってらっしゃい」と書かれたボードもある。
舞う紙吹雪。優勝パレードのようだね。
みんな勇者の一行を見送りに来ているんだと。
ええ、そうなの?
そうなのね。民衆にしてみれば、邪悪なドラゴンを倒してくれるありがたーい勇者さまとその仲間たち。聖女さまは、このためにわざわざ異世界からやって来たのだ。
この世界を救うために。我々民を救うために。
救世主のご一行を、ぜひこの目に留めておかなければ。
そのように情報操作をして、旗を配ったのは宰相閣下でしょうか。
王国軍の兵士ががっちりとガードする目抜き通りを、勇者の一行と同行する王国軍が粛々と進んでいく。
「聖者の行進」ならぬ「聖女の行進」(笑)。
出発前、お城の前の広場にて。
「ご武運をお祈りいたします」
宰相閣下はトリさんに騎乗したわたしたちに、そう言って目をぬぐった。
ウソ泣きだろ?
国王陛下と王妃殿下ならびに王太子殿下(ブライアンのお兄さんね)をはじめ、官僚各位、それにお城勤めのみなさん総出の見送りを受けた。
さすがに王さまと王妃さまは本物の涙目。
「無理だとわかったら、さっさと帰ってくるんだぞ」
王子にこっそり耳打ちしてた(笑)。それが親心でしょうね。
旅の衣装は、白シャツに乗馬パンツ。編み上げブーツ。聖女をイメージした真っ白いひらひらのマント。裾にキラキラがついている。
王子は礼服。背中にオリハルコン。マリアさんは乗馬服の上に、いかにも魔法使いな黒いマント。例の杖をたずさえて。
コンラートさんとジャック、レイラは王国軍の礼服。
ねえ、なんで? 動きにくくない? こんな格好で旅するの?
「国境までは沿道に民衆が見送りに出ますから、声援に答えてくださいね」
マジで? だからこの格好? パレード用ってこと?
「国境で渡しに乗るときには、着替えていただいて結構ですよ」
国境まで6日の日程。パレードの時間と場所もちゃんと決まっていた。
「民衆にはしっかり出立のアピールをしてくださいね」
……国家プロジェクトだもんね、これ。「王子が聖女や魔法使いを従えて、ドラゴン倒しに行ってくるよ」のアピールなんですね。そうですね。たいせつですね。わかりました。
ちゃんとやりましょう。
そうね、魔物が暴れたら真っ先に被害にあうのは一般人だもんね。家が壊されたり、畑や家畜がダメになったり。ケガをしたり、下手したら死んじゃうんだし。
わたしが、助ける手立てを持っているというのなら、見捨てるわけにはいかないもんね。いろいろ納得はできないけれど、わたしもそこまで非情ではないよ。
誰かが犠牲になるのを黙って見てるのは、さすがに無理。
お城に残ったところで「せっかく召喚したのに役に立たない」とか言われるんでしょ。
あの窮屈なお城の中でじっとしているのも性に合わない。
旅支度のわたしを見た、みんなのほっとした顔が後押しをする。
「来てくれてよかった」
王子が言った。ほかのみんなもにっこりした。心配かけてごめんなさいね。
ちゃんと行きますよ。
パレードは進む。歓声がやむことはない。
空が青い。太陽がまぶしい。
「空にはおひさま。足もとに地球。みんなみんなあつまれ。みんなでうたえ」
懐かしいメロディが口をつく。歌ったのは幼稚園の時だったかな。
歌うのは好きだ。
前にカラオケに行ったのはいつだったっけ。
もう行けないのかもしれない。
うん、でも歌うことはできるな。いつだって、どこだって歌うことはできるんだ。
世界のともだちあつまれば
なんにもおそれることはない
やけくそとも言いますね、(笑)。
ゆくてはアフリカ ポリネシア
みどりの森
行ってやりましょうとも、どこまでも。
空にはお日さま
足もとに地球
みんなみんなあつまれ
みんなでうたえ
歌声に合わせて、民衆のボルテージが上がっていく。歓声の波にのまれるようだ。
「……すごいな」
王子が言った。護衛についている兵士たちの士気も上がる。上気した顔で「えいえいおー」なんて鬨の声を上げたりして。
「さすが聖女の力だ。アリーさまはこの国、いやこの世界の希望なんだ」
いやー、おおげさだなー。勇者さまが言うなよー。てれっ。
でも、みんなが喜んでくれるなら、いくらでも歌いますよ!
さあ! 一発かましに行きますか!
ちなみに、ジャックのトリさんは超特大だった。もはや恐竜。
聖女の行進 〜ドラゴン討伐の旅 吉田ルネ @rune-y
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