夜会は波乱 3
「機嫌とかじゃなくてですね」
ため息は吞み込んだ。偉い。自分で自分を褒めてやる。
わたしは、おもむろにガーターベルトに挟んでいたスマホを抜く。そしてたぶん二度と明るくならない画面を観衆(笑)のみなさんに向けた。
ゆっくりと見せるようにスライドしていく。
当然みなさんは「?」である。見たこともない四角い黒い板。それはなに? だろうね。
「X インスタグラム TikTok ライン 電子決済 グーグル ユーチューブ アマゾン」
この人たちにとっては聞いたこともないことば。
「ア、アリーさま。いったいなにを?」
みなさん、戸惑っていらっしゃる。
「これはスマホです。わたしの世界では誰もが持っています。なくては生活できないものなんですよ。さっきのことばも、誰もが知っています。日常的に使うものです。もしあなたが今、突然、向こうの世界へ拉致されてしまったらどうですか? スマホがなにかも知らず、Xもアマゾンも知らず」
ホールはしんと静まり返った。
「えー? スマホ持ってないの? ガチでー? マジウケんだけどーって笑われるんですよ。こんな長ーいギラギラの爪で指さされて。だって知るわけないじゃんね。いきなり拉致されたんだから。召喚なんて言って、右も左もわからないのに、さあ、ヒグマを退治に行ってこい、なんて言われたらどうします? 死ぬかもしれないのに。わたし今、そんな状態なんですよ」
王子がジャケットを脱いで肩にかけてくれた。さすがだ。やることがいかにも王子っぽい。
「ちょっとくらい気を遣ってくれてもいいんじゃありませんかね」
「アリーさま。大変申し訳ありませんでした。陛下がおっしゃったとおり、この度のことはきっちり調査いたします。処罰もアリーさまのお望みどおりに」
宰相閣下が頭を下げた。
別に処罰なんて望んでいない。敵を遠ざけてほしいだけだ。
「わたしは戻って頭を冷やします。あしたに備えなければ。みなさんはどうぞお楽しみください」
わたしは頭を下げた。カーテシーだっけ? そんなの知らないから、きっちり45度に腰を折った。This isジャパニーズビジネススタイル。
すっかりおとなしくなったくるんくるんたちが、どんな顔をしているのか見ることもしなかった。気にする価値もない。
あとは王さまがなんとかしてよ。
コンラートさんは部屋まで送ってくれた。
「まったく無茶をする」
「呆れましたか」
へへっと笑う。
「ほんとうに、足を出すなんてふつうのことなんですよ。あちらはもっと軽装ですしね。こーんな短いスカートとか平気ではきます」
手で太ももを指す。
「そ、そんなに……」
「だからね、だいじょうぶですよ。そういう価値観で生きてきたんです。この世界とは違うでしょうけど、今更です。そのうち慣れるのかもしれませんが。心配してくれてありがとうございました」
ぺこりとおじぎをする。
「もう、あなたって人は……。価値観に違いがあったとしてもです。わざわざ自分が矢面に立つことはないじゃないですか。わたしを頼ってください。そのための護衛なんです。力になりますから。ね?」
やだー、「ね?」なんて言われたら「はい」って言うしかないじゃない。
「では、あした」
コンラートさんは男前に帰っていった。
部屋に戻ると、すでにエラたちの姿はなかった。かわりに新顔の侍女が3人いた。
さすがお城。仕事が早い。だからと言って、気を許すつもりはないが。
着替えを手伝ってもらってから、早々に下がってもらった。せっかく来てもらったけれど、早くひとりになりたかった。
軽食とお風呂の用意がしてあった。ありがたく食事をいただき、入浴を済ませた。ユニットバスみたいなものである。魔法のおかげなのか、お湯が冷めることはない。不思議。
早々にベッドにもぐった。
夜会、どうなったかな。
まあ、いいか。ボヘミアンズに任せよう。
勇者ご一行は、不安になったかな。彼らには悪いことをした。彼らが嫌いなわけじゃない。
うん、ちゃんと行くよ。投げ出したりしないから、安心してほしい。
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